ななせ

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花なんて、別に好きじゃなかった。
祖母はよく部屋に花を飾っていたけれど、名前を知っているのはバラとかチューリップとか、そんな有名どころくらいだった。

あの人は、花みたいな男だった。
華のある、と言っても良いかもしれない。スケコマシで、女の子によく花束をプレゼントしていたから、花には結構詳しかった。そのせいか、私も少しは知識が増えた気がする。
本人はヒマワリが好きだと言っていて、洒落臭いと笑い飛ばしながらも、心の中では何だか似合うと考えていたのは秘密だ。
花は綺麗だが、いつかは枯れてしまう。特に、美しい花の寿命は短い。
美人薄命という言葉は、案外迷信でも無いらしく、あの人は二十歳そこそこで永遠の眠りにつくこととなった。
シャボン玉のように儚く消えてしまうものだから、本当は初めから存在していなかったんじゃないのかとさえ思ってしまう。けれど、最期に託された黒い手袋は、確かにあの人の物だった。
シャボン玉みたいに、綺麗で、眩しくて、壊れてしまうと知っていたなら。
喧嘩別れしたあの時、引き止めて一言謝れていたなら。
何かは変わっていただろうが、考えてもどうにもならない。
あの人の人生は、あの時、あそこで終わったのだ。
誇り高き血は、私と共に生きることを選ばなかった。いや、選択肢なんて与えられていなかった。
それでも私たちは、きっとどこかでまた巡り逢う。奇妙な絆で結ばれている限り、永遠に。




「──あれはスイートピー、花言葉は『優しい思い出』だったかな。で、あっちのがモクレン。白色だから花言葉は『気高さ』ね」
「ママはどうしてそんなにお花のことをしってるの?あ、お花とおしゃべりできるんでしょ!」
大きな瞳を輝かせて言う愛娘に、苦笑しながら答える。
「違うわ。詳しい人に教えてもらったの」
「…?だぁれ?」

「…さあ、誰だったかしら」
見上げた空には、飛行機雲が一筋伸びているばかりだった。


お題『恋物語』

5/19/2024, 12:49:24 AM