NoName

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8/15/2025, 3:18:05 PM

!マークじゃ足りない感情



ーー驚いた。
ーーまだそんな余裕あったんだ?


俺は、歯を食いしばって女を見る。
息をするのも辛かった。
顔を向けるのにも気力を使う。


女は楽しそうに微笑む。
次はどうしようかと、周りに置いてある道具を物色していた。


ーーこれ、もう使えないかと思ったんだけど、できそうかな。どうかな?


無理に決まってんだろ。
俺の体力も気力もマイナスだっての。
倒れるのはプライドが許さねぇだけだ。
でも、もう無理。


言葉にはできない。
女を睨みつけるだけだ。



女はこちらを見て目を細めた。
機嫌が良さそうで何より。

俺はその目が好きだよ。
でも、もう無理だって。


ーー私も好きだよ。
ーーだからもうちょっと頑張って。


女は選んだ道具を持って、俺に近づく。
無理だやめろ、止まれ。


ーーその顔が好き。
――もっと見せて。
女はそう言って俺に触れる。


俺は声にならない悲鳴をあげる。

女は恍惚とした顔で、その俺を見ていた。



体力と気力は既にマイナスでも、何かほかのゲージが溜まっていくような気分だった。

俺以外にその顔を見せないでくれ。
そのためなら俺はいくらでも、耐えてみせるから。


――そう。その顔、その声。その感情。
――もっと。
――私だけに見せて。
――もっと。
――その先が見たいの。

女と視線が合う。


言葉にはできない。
俺は満足した。

女は止まらなかった。

8/15/2025, 6:31:49 AM

君が見た景色


君は綺麗だと言った景色は、まるで1色で塗りつぶされたような景色だった。

君の好きな色にすれば、君はもっと好きになるんじゃないか?


君はきっと、あの景色に同化するように溶けたかったんだ。
境目を溶かすように。


境目を無くせば喜んでくれるだろうか。


君から溢れ落ちる、
君の好きな色で、
君の好きな景色のように、
君の境目を消していく。


確かに綺麗だった。

俺はやっと君に共感できたよ。

8/13/2025, 5:24:46 PM

言葉にならないもの


それは既に手の中にはない。
言葉にした時点で違うものに成り果てる。


微妙な差異にそれぞれ言葉を与える。
けれども確実に模倣と本物は、似て非なるもの。


ーーそれでも伝えたい。

無駄なことを。


ーー言ったら分かってくれるよ?

それは同じでは無い。
相手がいいように解釈し直した別物。
模倣からさらに別の者へと変化する。


ーー何となくでいいじゃん。

まぁね。

人は完璧など求めないから。

8/13/2025, 2:56:21 AM

真夏の記憶


皮膚が焼ける。
遮るものは無い。


焼けた石の上を、裸足で進む。
靴は既に遠い。


痛い。痛い。痛い。
それしか考えられないのに、ゆっくりと歩く。

なんでこんなことをしてるんだろう。


真横を子供たちが駆け抜けていく。
雑音となって消えていく。


終われとも始まれとも思わない。

ただただ、何もしたくなかった。

8/11/2025, 3:02:09 PM

こぼれたアイスクリーム

地面に落ちた。
拾う気にはなれなかった。


帰りにその道を通った。
既にアイスクリームは無い。
あった場所も分からないほどだった。
やっぱり拾わなくてよかった。


どうせもう食べたくなかったんだ。
食べたくなったらまた買えばいい。


いらなくなったら、こぼせばいい。

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