NoName

Open App

!マークじゃ足りない感情



ーー驚いた。
ーーまだそんな余裕あったんだ?


俺は、歯を食いしばって女を見る。
息をするのも辛かった。
顔を向けるのにも気力を使う。


女は楽しそうに微笑む。
次はどうしようかと、周りに置いてある道具を物色していた。


ーーこれ、もう使えないかと思ったんだけど、できそうかな。どうかな?


無理に決まってんだろ。
俺の体力も気力もマイナスだっての。
倒れるのはプライドが許さねぇだけだ。
でも、もう無理。


言葉にはできない。
女を睨みつけるだけだ。



女はこちらを見て目を細めた。
機嫌が良さそうで何より。

俺はその目が好きだよ。
でも、もう無理だって。


ーー私も好きだよ。
ーーだからもうちょっと頑張って。


女は選んだ道具を持って、俺に近づく。
無理だやめろ、止まれ。


ーーその顔が好き。
――もっと見せて。
女はそう言って俺に触れる。


俺は声にならない悲鳴をあげる。

女は恍惚とした顔で、その俺を見ていた。



体力と気力は既にマイナスでも、何かほかのゲージが溜まっていくような気分だった。

俺以外にその顔を見せないでくれ。
そのためなら俺はいくらでも、耐えてみせるから。


――そう。その顔、その声。その感情。
――もっと。
――私だけに見せて。
――もっと。
――その先が見たいの。

女と視線が合う。


言葉にはできない。
俺は満足した。

女は止まらなかった。

8/15/2025, 3:18:05 PM