ブランコ
キィ、キィ
油が取れているからか、金属同士が擦れ、音がする。
甲高い音が、耳に嫌に反響して背筋がざわつく。
まただ。あの公園のブランコはいつもそう。
風もないのにキィ、キィ揺れるのだ。
私はいつも気がつかなければよかったと思いながら通り過ぎる。
不思議なものは触らないに越したことはない。
キィ、キィ
ほらまた呼んでいる。
気になるという好奇心を抑えつけ、
通り過ぎなければならない。
視線をブランコから逸らし、前を向く。
キィ、キィ。音はまだ、止まない。
足早に公園の外側の道路を通り過ぎる。
キィ、キィ。嫌な金属音は、聞こえない。
聞こえない。そう。聞こえないんだ。
こんなことあったか?ブランコはどうなっているんだ?
安心感を得るためか、揺れていないであろうブランコを見ようと、私は足を止め振り返ろうとした。
まて、本当に振り返っていいのか。
押してダメならというやつなのではないか。
そんな疑心暗鬼が心に住む。
考えても仕方がない、ブランコのことは考えず、家に帰ろう。
私は振り返ろうと止めてた足を家へと進める。
キィ、キィ。
私を待っていたかのように、あのブランコはまた、軋み始めた。
旅路の果てに
キミのことをわかった気がした。
ボクとキミは種族が違う。
同じ人型だけど、疎まれるボクと好かれるキミ
長く生きるボクと短く生きるキミ。
ボクは人に似た異形で、キミは花から生まれた人。
どうしてボクと共にいてくれるのだろうか。ボクが死ぬ場所を探してる冒険だったのに、いつのまにかキミと生きる冒険になってた。
キミは死ぬ時に花の種を作って亡くなる。
その種を植えるとキミが生まれる。だから、ある意味ボクより長生きなのかもしれない。
でも、そんな冒険ももうおわり。
ボクは疲れてしまった。何度も何度もキミと会って、何度も何度も別れて、その度に色々な冒険して、とても、たのしかった。
ボクの手の中にいるキミは知らないだろうけど。
…寂しくないように、いてくれてありがとう。
I LOVE
人の好みは千差万別だ。
何が好きなのかわかりゃしない。
吾輩も漏れず好き嫌いは多い。
好きなたべもの、嫌いな食べ物もあるし大きな音がするなんてもってのほかだ。
あいつに好きなものだけ食べたいと、言ったのに聞きやしないで嫌いなものを出してくる。全くもって腹が立つ。
嫌がらせ程度に残しておこう。ほれ。これはいらん。
アイツ、今日はやけに静かだな。雨にでも濡れて身体が重くなってるみたいにみえる。
寝ている吾輩に近づいてしわしわな顔を寄せてくる。
おいやめろ、またそれか、最近いつもそうじゃないか。吾輩は吸われる生き物では……、
吾輩の手が出る前にアイツが吾輩を捉えて腹を吸う方が先だった。…………まぁ、今日は、いい。
今日、は…………。やっぱ、やめろ。
アイツの頭にパンチをくらわせ、吾輩はするりと逃げ出した。
安心と不安
どっちもね、簡単に消えるものだなって思うんだ。
嫌だなぁって思って過ごしてたはずなのに、スマートフォンを触ったりゲームだとか仕事とかして、
あれなんであんなに嫌だったのかなって疑問に思ったり。
心地よく過ごしてても、仕事のメールが来たり明日は月曜日だ仕事だとか学校だって思ったらなんとなく気分が落ち込んで嫌になってきて、さっきまでの楽しい気分はどこに行ったんだろうって思ったり。
でも嫌だったとしても、ぼーっとしてたら消えたり。
消えなかったりする。不思議なやつ。
安心しすぎても不安になったりするんだから、気まぐれなやつ。
逆光
空が橙色に染まる。光が傾いてキミの姿を黒くする。
きっと僕の姿は、彼から見たら顔が見えるほど明るく見えるのだろう。
僕からはその顔も見えずらいってのに。
長く伸びた影からわかる。キミは僕の後ろから手を振っているんだよね。
キミはいつもそうだ、この時間、この場所でしか会えない。
いつからあったのかわからない、でもキミはいつもここにいる。ここを通るたび、キミはいつもいて、ここを通るたび、僕の後ろをついてくる。
不気味で仕方ない。
キミは約束してくれたね。
この道を通るのであれば、僕のことを守るって。
危ないから守るって。何から守ってるのか知らないけど。
そしてもし、転ぶことがあれば、
その子は今日ワタシの前で躓いた。
そう、転んだのだ。ころんだ、ころんだね。
約束通りにしようね。ころんだんだから。
荒い息遣いがその子から聞こえる。
やっぱりこわいね。あたりまえだよね。
言ったもの、約束したもの、転んだら喰らうって。
ちがうよ、転んでない。
ただ、そう、靴紐が解けたのを直そうとしただけ。
橙色の光が増す。ますますキミの姿が黒くなる。
キミの大きな影が僕にかかる。
なぁんだ、そう。次からはキツく靴紐を結んでおくんだよ。この道は危ないんだからね。あぁ、残念だ。
そうだね、危ないね。ご忠告ありがとう。
もうすぐこの道の終わりだ。
キミとはいつもここでお別れ。じゃあね。黒いキミ。
またね。またこの道を通ってワタシに守られてね。
キミはそう言っていつもの通り手を振ってる。
すっかり日の明かりがなくなった空のなか、
くっきりとキミの黒い姿はみえた。
やっぱり、キミのことはわからないや。