静かな夜明け
ーそして、三日三晩続いた彼らの死闘は、
男の胸を女の剣が貫いて終わった。
いくら、男が無尽蔵に再生する身体を持っているとはいえ、毒と飢に身体を蝕まれていては、普段は致命傷にすらならなかったその攻撃にも、耐えることはできなかった。
女の方も五体満足とは言えなかった。片腕は使い物にならずだらりと垂れており、腿には深々とした刺し傷がある。
そのせいか倒れた男の元へ近づくのも脚を引きずっていった。
女がわずかに生きようとしている男に近づいた時、
男の口角が上がった。
普段の軽口を叩く不敵な笑みではなく、どこか見送るような表情。
その表情を女はただ冷たく、おそらくただ冷たく見下ろして、
男の胸に刺さったままの剣を深く地面へと刺した。
ながく、ながく、上らなかった、太陽が昇る。
陽が高く昇るまでの寒々とした冷気が女を包んだ。
heart to heart
「………えーっと、意味はー……」
俺はHの項目を指でなぞり、辞書を開く
eの項目を目で辿っていた時、
「あのセンコーめんどくさい宿題出すよなーホント。」
横からアイツが口を出してきた。
「何だよ、お前はもう全部調べ終わったのかぁ?」
「あたりめーだろー。コレがあるんだからさー。」
と、アイツは自慢げにスマートフォンを見せびらかす。
「必要なら貸してやろうか?」
と、半ば心配してなのか声をかけてくる
「いや、いい。」
対抗心もあっていつも通りに断る
「いつもそうだよなー。スマホで見ちまえばはえーのに。」
「いいだろ別に、こうやって紙触ってるの、好きなんだよ。」
アイツをみていた視線をまた、辞書へと辿らせる。
aの次は、と
「あーっそ。ま、早く終わらせてくれよー。この前のゲームの続きしたいからさー」
「先に始めてろよ」
適当にいつもと同じくあしらう。
rtと見つける。揃った。
これだけだと別の意味になってしまうから、
表現の例文を探してみる。
「……。」
“腹を割って話す”
見つけた言葉を解答欄へ記入していく。
「なぁ、まだぁ??」
アイツがまた飽きてきたと言わんばかりに声を上げる
「うるせーなぁ。今半分だよ」
「はぁあ?遅すぎ、俺のプリント見せるから書き写せ」
「勝手なことすんなよ、やるわけねぇだろ」
と、ドタバタと小競り合いをする。
まだ、俺たちには関係のない言葉だなぁ、って何となく感じた。
ベルの音
思わず、空を見上げた。
星が見える帰り道、聴こえるわけがない音が、
聞こえた気がしたから。
けれど空は相変わらず、寒さに凍えているような星が数多に輝いているだけ。
自分も思わず身を震わせる。
「さぶ……。早く帰ろう……。」
子どもの頃よりはるかに背も伸びているけれど、
どうしてもこの時期は白いケーキを買ってしまう。
丸いケーキでは無くなってしまったけれど、1ピースのケーキだとしても、自分の足取りを軽くするのには充分で。
だから、空に軽やかな音色が鳴っている気がしたのかもしれない。
喪失感
欲望というのは誰しもが持っている。
金が欲しい、美味いものをたらふく食べたい、生きていたい。ほかにも人の数だけ欲望はある。
欲望が満たされて充足しているはずなのに、
もっと、もっとと飢えてはまた欲しがる。
満ち足りないからその身体の中を満たそうとする。
失って、飢えるから欲しがる。
無くなってから気づくとはよく言ったものだよな。
愛を叫ぶ。
悔しい。
想いなら誰にも負けない、負けてない。
こんなにも焦がれているというのに。
じゃあなぜ、俺は選ばれない。
力がないから?俺は俺のありったけを込めている。
なら、何が足りなくて選ばれない。
悔しい。
あぁ、もっと上手くならなくてはいけないのか。
……時間がたりない。
寝ることも忘れて描かなければ。
でなければ、『選ばれる』ことはない。
悔しい。