NoName.

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君と見た景色


お前と顔合わせたのっていつぶりだった?

その人は横たわるもう1人に声をかけた。

僕が帰ってきた時も、居なかったからその前……、もしかして半年くらい前だったっけ?

どうだったか、と顎に手を当てその人は正確な時期を思い出そうとする。けれど、会わないのが当たり前となっていたのだから思い出せないようで、

だーめだ。お前の顔ひとときも忘れたことないけど、会ってないって時期までは思い出せないや。

肩をすくめてそう言葉を投げかける。
何度も言葉を投げかけられているのに、横たわるもう1人は言葉を返そうともしない。
それが当たり前であるように、その人は続ける。

返事くらい返してからにしろよ。なぁ。

最後にその人が覚えているのは、自分が一方的に相手を怒鳴りつけた瞬間。相手の見透かしたような、取るに足らないと言わんとするような表情。
こんな時にも頭の中の記憶から離れていくことがない。

その人は思わず、その棺が載っている台を蹴飛ばしそうになる。だが、それは紳士的な行動ではない。
脚を蹴り出そうとした直前で、止まる。

それからその人は踵を返し、足早にその花の香りと人が大勢いる部屋を後にした。
花の残り香がまだ黒い衣服に染み付いている。

3/21/2025, 5:14:25 PM