私は、ささやきが嫌いだ。
人は皆、口に出して言うことが怖いのだろう。
だから、声を潜めて、耳元で何かを言いたがる。
しかし、どうして耳元で囁かれると、あんなにも心が揺さぶられるのだろう。
その声が、まるで密かに自分の心を覗いているような、
そんな錯覚を覚えてしまう。
「お前は……」と、耳に囁かれるだけで、
何も知らぬはずの私の心の奥底が、どこかに見透かされてしまうような気がして、
そのたった一言で、私は自分を壊すのだ。
人の言葉が、こんなにも私に深く刺さるのは、
結局のところ、私が言葉に依存しているからだ。
私は、誰かの言葉を待っている。
それを欲して、心の中で求めている自分に気づいているが、
その欲望が、また私を不安定にさせる。
「好きだよ」と囁かれたとしよう。
その一言に、私は一瞬で心を奪われ、
その後、その一言だけに縛られ、
その言葉が意味を成す瞬間を、何度も繰り返すことを望むのだろうか。
だが、私は知っている。
その言葉が囁かれるたびに、
私はもっと虚しくなり、もっと深く暗闇に沈んでいくことを。
だから、私はささやきが怖いのだ。
それは、私を壊す言葉だから。
でも、同時にそれを望んでしまう自分もいる。
私は、自分を傷つけたがっているのだろうか。
結局、私は何も分かっていない。
ささやきに寄り添うこともできず、
その言葉に頼ることもできず、
ただただ自分の中で空回りしているのだ。
ささやき
星明かりが好きだなんて、嘘でした。
あの夜、わたしが星を見上げていたのは、
ただ、あなたの顔を直視したくなかったからです。
「綺麗だね」って言葉が喉まで出かかって、
わたしはそれを飲み込みました。
その瞬間、何かが終わった気がしました。
星は相変わらず、静かに瞬いていました。
星明かりって、優しそうな名前をしてるけど、
あれはただの太古の光です。
何千年も前に死んだ星の亡骸。
それを「綺麗」なんて言って、酔っているあなたが、
わたしには、とても愚かに見えたんです。
あの日から、星を見上げることはなくなりました。
あの光が、あなたの横顔を照らしていたと思うと、
吐き気がするんです。
でもね、時々ふと、思い出すんです。
あなたの声と、あの夜の空気と、
「星明かりが似合う人だね」って、
本当は言いたかった、たった一言を。
星明かり
影絵って、
要するに影じゃん。
その影が何を意味するかなんて、
本当はどうでもいいんだよね。
だって、
影なんて所詮、
光があたった結果、
一時的に出来上がったものにすぎない。
それを「形」とか「象徴」とか言って、
みんな過大評価しがちだけど。
例えば、
あなたが壁に手をかざして、
うさぎみたいな影を作ったとするじゃん。
でも、実際にはただの手のひらなんだよね。
そのうさぎ、
なんの意味もない。
ただ影ができただけ。
でも、そこに
「うさぎだ!可愛い!」とか、
「これ、何か深い意味があるんじゃない?」とか
言いたくなる瞬間があるんだよ。
みんなが「意味」を求めてるから、
仕方なくこじつけるみたいな。
影絵が本当に面白いのは、
その影が、
あくまで「影」だってことに気づいたとき。
影が消えたら、
ああ、そうか、ただの光だったんだな、って。
でもその一瞬、
あえてそれを信じてみることの面白さ。
結局、影絵ってさ、
光と影の遊びでしかないんだけど、
その遊びが、人間には結構好きみたいなんだよね。
みんな、自分の影に一喜一憂してる。
まあ、影絵ってそういうもんだよね。
影にこだわって、
結局光がすべて持っていく。
でも、それでもいいんだよ。
だって、影があるから光が輝くんだし。
影絵
君は、いつも正しい道を歩こうとしていた。
僕は、正しい道なんて最初から無いと思っていた。
それでも、君はまっすぐで、僕はそれに背を向けながらも、なぜか君の足音だけは聞いていた。
たぶん君も気づいていたんだろう。
僕が振り返るたびに、同じ景色を見ていることを。
気づかないふりをして、でも気づかないではいられないふりをして、
君と僕は、すれ違うようで、すれ違えなかった。
「またね」って言葉だけは、僕たちの間で何度も繰り返された。
終わりみたいで、始まりみたいで。
だから僕は、あの言葉がすこしだけ好きだった。
たぶん、君も。
君と僕
夢って、たぶん誰かが思ってるよりだいぶ地味で。
ほら、テレビとかだと「夢に向かって全力!」とか言って、汗とかキラキラしてるけど、
実際のところは、キラキラなんかしてなくて。
むしろ、汗とかベタベタだし、ぜんぜん爽やかじゃないし、
途中で「あれ?これほんとに夢だっけ?」ってわからなくなるし。
で、そういうときに限って、
周りの友達とかが「なんか、私やりたいこと見つかっちゃって〜」とか言い出して、
「あ〜よかったね〜」とか言いながら、内心はまあまあ焦ってるんですよね。
ほんとは自分だって見つけたかったのに、って。
で、たまにふと気づくんですよ。
「あれ、俺、夢に向かってるんじゃなくて、夢に追われてない?」って。
なんかもう、こっちが追いかけてるつもりが、いつの間にか夢に追われてる。
「早くしないと夢逃げちゃうよ!」って自分で自分を煽る始末で。
それで焦って走ったら、つまづいて転んで、
泥だらけになって「なんでこんなに必死なんだろ」ってなるんですけど、
その泥だらけの自分が、案外ちゃんと夢に向かってる姿だったりするから、もうめんどくさいんですよね。
結局のところ、夢っていうのはたぶん、
めんどくさいし、疲れるし、失敗するし、
なのにやめようと思うと、ちょっと寂しくなるやつ。
で、その寂しさを埋めたくて、また夢のほうへ歩いていく。
気がつけば、その繰り返しなんですよね。
まあ、そういうもんなんじゃないですかね、夢って。
夢へ!