「ねぇ見てくださいよ、とても綺麗な彼岸花が咲いてますよ。」
「ああ、もうそんな時期か。」
一つ一つ。
添えるための花の数が増えてく度に、哀惜は薄れて安らかな気持ちになるのはなぜでしょう。
──パン パン
「さて、さっさと帰ろう。」
最後の一輪を添え終えたあなたは、ぶっきらぼうに立ち上がって、手を差し伸べてきます。
「ええ、そうしましょう」
その手を握り返して、私も立ち上がりました。
「またいつか、会えますかね。」
帰り道、ふと溢れる独り言。
「どうだかな」
そしていつもの無愛想な言葉と、強くなるあなたの手の感触。
あなたと出会って53年。
この手のひらの温かさは、昔と全く変わりませんね。
カラカラ、カラカラ。
キーホルダー揺らして歩いた、いつかの帰り道。
久しぶりに歩く、かつての我が家への帰り道。
あの立て看板が。
あの駄菓子屋が。
あの坂が。
感じる夕方の匂いが。
雄弁に語るのは、あの頃の記憶。
さて歩道橋を登って、斜陽差す町並みを一望して。
「これから、どうしようかな」
ポツリこぼれるのは独り言。
くたびれた朝の空気が気持ち悪く感じられる。
覚めた瞼はどこか朦朧としたまま、体を前日の余韻が纏わりつくようだった。
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≪ ryuto
『ごめん…』0時13分
既読『謝らないでよ』
0時14分
1時43分『もっと違う未来もあったのかな』──────────────────────────
枕の傍ら、無造作に置かれたスマホに手が伸びて、無意識にいつもの画面を開いてしまう。
「あっ、本当に終わっちゃったんだな」
いつも早起きな彼が、10時を回っても既読すら付けないこと。
いつも惰性で開いていた画面を、明日からは開かなくてよくなること。
そんな些細な事実が、どうしようもなく私とあなたの終わりを告げていた。
「ふっ、ふふ」
しかし、こみ上げてくるのは笑いだった。
今もすごく辛いし、恋なんてしなきゃよかったと思う。
でもこの半年間を捨ててやらない。忘れてやらない。
いつか私の宝物にしてやる。
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≪ ryuto
『ごめん…』0時13分
既読『謝らないでよ』
0時14分
1時43分『もっと違う未来もあったのかな』
10時36分『ありがと』
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そう思うことがあなたへの最大限の感謝だと気付いたらから、今は笑いたいと思う。
ウクレレと、腰掛けられる椅子と、夜を照らす少しの灯りがあれば、きっとこれ以上何もいらないのでしょう。