人々の中で消える影
笑い声に混ざらない音
孤独は心に棲む霧
言葉の裏に隠れた孤独
見つめる先に、映る背中
手を伸ばしても届かない
微笑む顔に答えを探す
それでも心は遠くなる
集団の中で感じる孤独
響かない声に沈む心
温もりを求めることなく
だから、私は一人でいたい
僕は空を見上げるのが好きだった。
子供の頃から空を見るのが好きだった。単純に自分より大きくて清々しくて綺麗なものに憧れていたのだと思う。
そんな子供だったものだから、将来の夢はパイロットだった。自分の意思で自由に空を飛ぶのが夢だった。
もちろんそのように勉学、体力づくりに励んだ。体調管理、特に視力を下げないように気を遣った。視力が低いとパイロットにはなれないからだ。お陰でブルーベリーが好きになった。目にいい食べ物というだけで好きだった。
友達づきあいもそこそこに、空を飛ぶための準備に一身に励んでいた。毎日が楽しかった。
パイロットの訓練校に入った。国が運営しているだけあって施設が整っていた。本当はギリギリ落第の点数だったのだが、入学者を増やしていたらしく入学することができた。
そして、初めて飛行機を操縦した。自分が空を飛んでいるという感動に震えた。教官からは注意が散漫だ、操縦に集中しろと説教を食らったが、仕方ないだろう。その晩は興奮のあまり寝付けなかった。前の晩も楽しみで眠れなかったのに、眠気は少しも感じなかった。少しでも長く感動の余韻を味わいたかった。
飛行訓練以外の教科ではあまり点数が取れなかった。飛行訓練も出来が良かった訳ではないが、空を飛べるだけで満足だった。
戦争が始まった。学校の卒業を待たずに従軍するらしい。制服一式が支給されたが、自分ではあまり似合わないと感じた。
学校で成績の良かった極一部のものは、部隊の指揮を任されるようだった。その点は成績が良くなくて良かったと思った。人付き合いは苦手だからだ。
学生を徴発するようだし、戦況はあまり良くないようだった。飛行訓練のときも燃料を無駄遣いしないよう、気をつけて操縦することを求められた。空が少し窮屈になった。
今日も敵地に爆弾の雨を降らす。自分がスイッチを押すたびに爆弾が投下され、人が死ぬ。それでも、やらなければやられるのだとスイッチを押した。
昨日まで同じ部隊にいた仲間が次々と撃墜されていった。護衛の戦闘機がいても安心することはできない。明日は自分ではないかと眠れない日と、疲労から泥のように眠る日を繰り返した。
飛ぶたびにこれが最後じゃないかと思った。空を飛ぶのが怖かった。
遂に撃墜された。
相手は見たことのない機体に乗っていた。自軍の戦闘機が次々に撃墜され、爆撃機はなすすべなく機銃の的になった。
運が良いことに、被弾した箇所は胴体真ん中で五体満足のまま機外に放り出された。運が悪いことに、放り出された衝撃でパラシュートが壊れていた。訓練校でこういった場合の対処を教わったような気がするが、思い出すより落ちる方が早いだろう。
いざとなると、自分が死ぬことはすっと納得できた。たくさん殺した身の上で自分の番が来た時に文句を言えるほど図々しくはない。
落ちながら上を見る。小さい頃から変わらず美しい空が広がっていた。思えば、空を美しく感じるのは久し振りだった。この感動があったから空が好きだったはずなのに、何故忘れてしまっていたのだろうか。思えば飛ぶこと自体はあまり好きではなかった。空を飛んでいるという感覚に酔っていただけだ。好きなのは空を見ることだ。
雲ひとつない快晴だった。これから死ぬというのに、空は忌々しいくらい綺麗に澄んでいた。
徐々に広がる空を見た。
ずっと見ていた。
時間を無駄にしたい方へ送る盛大なストーリー。
ごぼうを避雷針の代わりにしようという村長の策は、儚くも無駄に終わった。
ごぼうには目もくれず一軒の家に雷が落ちた。
そう、私の家に。
音を立てて家が燃える。
他の村民は悲しんだり悔しがったりした。中には怒鳴り散らす者もいた。
そうなるのも無理はない。
この地方では滅多に大雨が降らない。その反動か雨は恵の象徴であり、嵐をつかさどるとされる風神と雷神は村をあげて強く信仰されていた。
そして古くからの言い伝えの一つに、雷が落ちた家はその後五代は繁栄が続くというものがあった。
なので数年に一度の頻度で訪れる嵐の夜には、全ての村民が家から出て、我が家に雷が落ちることを願っていた。
私はそんな言い伝えにはさほど興味はないし村人ほど信仰もしてないのだが、不思議と嵐がくるとどこかの家には必ず雷が落ちるので、身の安全のためにも家から出ざるを得なかった。
どこに雷が落ちるかは雷神が決めるという話だが、村長は「雷神様にお供えするだ」と言ってごぼうを数本紐で縛ってつなげ、屋根の上から天に向けて高く突き上げた。
これには他の村民も黙っておらず、「抜け駆けはよくねえだ」「おら達もお供えせねばならねえ」と言ってどこの家も屋根の上にかぼちゃだの里芋だのを積み上げた。
しかし村長はそんな村民達の様子を鼻で笑っていた。
村長は避雷針というもの、雷の性質というものを心得ていたからだ。
「雷神様はごぼうが好きだ」
口では雷神を信仰しているように見せているが、実は村長はそんな言い伝えはまるで信じていなかった。
ならばなぜ村長はわざわざ自分の家を危険にさらすのかというと、繁栄が五代は続くという話には続きがあるからだ。
これは自然と暮らしが豊かになるのかというとそんなことは全くなく、他の村民全員で雷神に選ばれた村民、「来人」の暮らしを支えるのだ。
まず来人の家を建て直すのは勿論のこと、前よりも大きな家を建てる。
そして村民達がそれぞれの畑で収穫した作物の2割を来人に収める。
来人はたとえ不作の年であっても一定の蓄えを得られているため、暮らしに困ることがないのだ。
だからみんな来人になりたがっており、私が選ばれたことに多くの村民が頭を抱えているのだ。
「なんでこいつの小屋に落ちるかなあ」
「メカジラフが来人に選ばれるだなんて聞いたことがねえ」
「んでも、雷神様の神託にケチをつけるわけにもいけねえしなあ」
村民達は話し合い、その結果しきたりの通り私を来人とし、次の神託のときまで村をあげて暮らしを支えることになった。
「それでいいなあ村長」
刃物研ぎのHA-MOが村長に同意を仰ぐがしかし村長の返事はなかった。
「あ!あそこにいるよー!」
子どもが叫び指差す。
村長は私の家の中にいた。村長と目が合うと、彼はニヤリと笑ってドアフィルターを閉じた。
その後フロントモニターに大きく村長の顔が映し出される。
「悪いな、メカジラフ。この家は俺のものにする。そうすれば俺が来人だ」
村長の高笑いが響き、それに負けない勢いで村民達は非難の声を浴びせた。
「ダメだ、ありゃORGシステムを起動してるな」
「外からじゃ何もできねえぞ」
最後の村民が石を投げるのをやめたとき、メカジラフハウスは大爆発を起こした。
大爆発は一度だけではなく連鎖して起こり、その度に爆発の規模は大きくなっていった。
「村長は自分の家にサクリファイスゲートを設定してたからなあ」
「メカジラフハウスにとっちゃあ部外者の村長は保護対象外だ」
村民達はそれ以上、村長がどうなったかについて語らなかった。
私と村長は同じ大学で自然力学について学んでいた。だから村長と私は自然については同等の知識があった。
だが、私は機械であり同時にキリンでもある。なので機械の知識もキリンの知識も持って生まれている。
普通の人間の村長は機械に雷が落ちるとどうなるかということまでは知り得なかったのだ。
知識を持つということは己の身を守ることにつながるのだと、そう思った。
「ヤッパリ、チシキ、ヒツヨウ」
「おっ、メカジラフが喋ったぞ」
「やっぱ国立大学の出は喋り方にも品があるなあ!」
「よーし!みんなでメカジラフを胴上げだ!」
「制御パネルには直接触れるなよ」
「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」
みんなも入ろう、国立大学。
大人になった私は、お祭りの屋台で金魚すくいをみつけると「かわいそうだな」って、そう思うようになった。
それはいつごろからだろう。
小さい頃は「楽しそう」と思うばかりだった。
なのに、大きくなってみると、あんなにもキラキラ輝いていた思い出が、そうは見えなくなってくる。
お祭りに屋台に限ったことじゃない。
普段はシャッターの多い、寂れた商店街とかも。
こんな時だけ、あいてるのを見て「普段はどうしてるんだろう」「つぶれちゃったりしないかな」と思ってしまう。
屋台ではしゃいだ声を上げる子供たちを、綿菓子みかぶりついて笑みを浮かべたり、仮面をつけてなりきってる子供を見ると、とても寂しくなる。
あの頃の、何の裏も事情も知らなかった頃には、もう戻れないのだなと。
「そこの人、金魚すくいやってかないかい!?」
私は屋台の人の威勢のいい声に、愛想笑いを返してその場をさった。
子供のころすくった金魚は、もともとよわっていたのかもしれないけれど、三日も生きられなかったから。
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