「隆二君、よく転換手術を受ける気になっいてくれたね。ありがとう。これで、また医学が飛躍的に進歩するだろう。君のおかげだよ。」
「先生、こちらこそありがとうございます。僕はまだ、他の人たちより、ずっと軽いですが、この病気と戦うのは、正直、心が折れます。これから病気が進み、ますます体が動かなくなり、喋れなくなり、ここで死ぬなんて考えてられません。18才になったら、転換手術を申し込む予定だったので12才の僕が選ばれるなんて夢のようです。」
「素晴らしい。隆二君。12才で そこまで考えていたのか!優秀だね。しかし隆二君。君は、ほかの人より進行が3倍ほど早いから、油断できない。だからこそ18才になる前に特別で認められたよ。。来週の手術まで、もう少しその体で頑張ろうね。」
「はい。」
21世紀終わり頃に人の脳の記憶を調べられる技術が密かに開発された。
22世紀始めに人造人間体(JH)の使用が
世界中の医学で承認された
IPS細胞などでの部分的治療などではなく
人の脳と脊髄をそのまま摘出し
人造人間の体に移植する技術である
患者のクローンなどを作りそのクローンに
移植する方法もやってみたが
遺伝性の場合 健康体のクローンに移植すると
なぜだか数年で病気が発症し
瞬く間に病気が元の状態まで進行してしまう
その間に亡くなってしまうケースも多々あった
そこで患者のDNAの1部を変えたクローン改良型の人造人間を作ったのである。見た目は、ほぼ本人だが、精子や卵子はなく、繁殖はできない。それと、JHの活動年数は約40年~50年で再移植は今の技術ではできなかった。
「それでは、松村 隆二(12)の転換移行手術を開始します。18才以下の転換手術は、世界で6例目で日本では初めてとなります。みなさん、それぞれ宜しくお願いいたします。」
「はい!」手術室にいる3人が返事をした
この手術は全てAIによる手術で
人間のやることは
数字を見たり 患者の様子をみたり
ほぼやることがなかった
1ヶ月後
「先生 おはようございます」
朝の定期巡回に担当医が訪れた。
「おはよう。隆二君。ずいぶんと話せるようになったね。朝の気分はどうですか?」
「すごく いいです 本当に生まれ変わったようです まだ 思うように体は動かないけど 止まって行く体と違って だんだん動いていく体 僕は毎日楽しくて仕方ありません」
「よかった。まだまだリハビリは長いから無理はしないようにね。」
「はい これからの50年 僕は死ぬ間際まで 幸せになろうと思います」
「ははは、前向きでイイね。」
「ところで先生 本当の僕の体は 今どうなったいるのですか?」
「うん。手術をするかどうか決める前にお母さん、お父さんと一緒に話したよね。」
「・・・はい」
「心配かい? 大丈夫。摘出したJHの脳と脊髄を移植して今度は、JHが君の代わりに治療を行っている。JHには少し気の毒だが医学の発展の為だ。仕方ない。だが、記憶などの意識はない。でも、もし元の君の体が新しい薬で完治したとしよう。そうなったら、隆二君と同じ病気の人達は、人造人間転換をしないで、薬で治療できるのだよ。素晴らしいことじゃないか。隆二君!君の自己犠牲の精神があって、今、病気と戦う人達の治療が一歩前進するのだよ。だから、前の体の為にも、今の体の為にも、一生懸命に生きよう。」
「はい 先生」
同病院施設別棟(特別治療研究棟)
「どう、新しい被検体、まだ12才なんだって?」
「そうなんだよね。他の国に これ以上差をつけたくないからって 実験するこっちの身のもなってくれよ。俺の娘、今年12才だよ。」
「うわぁ、それは、嫌だな。」
「・・・・君たち、私の被検体の話しかね?」
「あ、教授。スミマセン。」
「べつに君たちが、どう思うと勝手だが、オリジナルは、どんなことがあっても治療を進める。私には今年、初孫ができてね。もし孫が難病になったらと思うと気が気じゃない。だから、隆二君のような被検体が必要なのだよ。君、娘が12才と言ったね。もし被検体と同じ病気に仮になっていたとしたら?君は、自分が死ぬまで娘の面倒を見るのかもしれない。老人になっても娘の介護さ。どう思う?」
「い、いや。」
「隆二君の ご両親は悩んだ挙げ句、自分の息子を人造人間にすることを選んだよ。わかってはいるだろう。脳と脊髄の移植手術なんて無理なことは・・・・」
「わかってます。教授。」
「患者DNAでクローンもどきを作り、患者の記憶をインストールし、JHにダウンロードする。なんてことない。隆二君もどき健康体のJHができただけだ。私たちは、アプリと同じようにハードの移行を見てるだけでいい。それで、その家庭が幸福になるのであれば・・・・制約は山のようにあるがね。」
「それで、教授、あの被検体はどこように扱うのですか?まだ12才ですよ。」
「君。被検体は人間じゃないのだよ。隆二と言う人間は、JHに記憶をインストールした存在が世間で言う隆二君だ。・・・・じゃぁ、ここにいる隆二君は? 20世紀の実験用マウスと一緒だよ。」
特別治療棟地下
・・・・
もう やだよ
か 帰りたいよ
お母さん お父さん た 助けてよ
病気でいいから 1人にしないで
外が見たいよ
痛いのやだよ
死にたくないよ
ごめんなさい いい子になるから・・・
鳥の様に自由に羽ばたき大空へ翔びたい
しかし それは幻想であり
鳥達は必死に羽ばたいている
楽しんでいる訳ではないのは
分かっているのだけれども
何時も考えてしまう
そして自らに足枷をし
翔べない事を言い訳にして
満足をしている人間が1人
翔べないのではなくて
翔ぶ事を放棄してしまった
哀れな人間が1人
鳥の様に自由に羽ばたき大空へ翔びたい
羽ばたく勇気を欠片程も持たない自分は
今日も1人呟いている
マッチングアプリの成就者情報。画面の中のクソ野郎が嘲笑するように俺を見る。
まだ奥さんいないんか?やばいぞ?
お前くらいの歳の人は、もうみんな結婚してるぞ。
何もわかっていない。そんな同調圧力をかけてくる方がダサいんだ。そんなの、人それぞれじゃないか。同性婚も認められつつあるこのご時世に、結婚しないことを認めないなんて、おかしい。
歳とって、焦って、相手を探して結婚する。これがみんなの普通らしい。少なくとも、親が言う普通らしい。でも、それは違う。あえて俺は断言してやる。
俺は人を好きになったことはある。
だけど、人を愛したことはない。
かわいいな。好き。優しいな。好き。
そんな、陳腐でありふれた恋。それしか俺は知らない。
でも、恋なんてもので、たったそれだけのもので、
結婚を決めるわけにはいかない。
結婚は、人生を縛り付ける足枷だから。
捻くれ者。僻んでいるだけだ。
音が、並ぶ。並ぶ。並ぶ。
画面の中のサイトの男性をタップする。
26歳と書かれてある。
画面の中の顔は輝いている。
作られた笑顔で。
思わずスマホを投げた。
俺は、すこしおかしいのかもしれない。
本能的な意味でみるならば。
でも、俺はそういう風に生きている。
他の野郎どもとは違って、理性に従って生きている。
俺は結婚によって失うものを知っている。
失わないために生きているだけだ。
失うものなんてないだろ。
壊れたテレビの砂嵐が言う。ザーザーザー。
うるさい。
俺は自由を失いたくないんだ。ただ、それだけ。
赤が床に広がっている。
フランスを自由にしたのは、この赤だった。
俺は自由だ。誰がなんと言おうと。
束縛から逃れ、大空へ飛び立つんだ。
部屋はこんなに締め切っていて狭いんだぜ?
いったいどこに飛び立つって言うんだ?
割れた電球が大空を揺れながら騙る。
楽しそうに揺れてるぞ。
窓を開ければ、すぐにでも飛び立てるはずさ。
ヒタ、ヒタと歩き、カーテンを開け、窓を開ける。
夜風が部屋を吹き抜けようとする。
そこを玄関が立ち塞がりとおせんぼする。
通さない。通せない。玄関は頑固だ。
けちんぼ、と風が言い、生暖かいニオイを運ぶ。
んーーと、背伸びをして定位置へと歩き出す。
何かが足に触れる。
「クソ・・・やろ・・・う」
ゴミがガサガサと喋っている。
少し蹴ってやる。ゴミは押し黙る。
「恋人が欲しい」
口ずさんでみた。
でも、それはうわべだけでしょ。
キッチンに置かれた包丁がテラテラと語る。
さすが包丁。奴は俺の代弁者だ。
普通の人には恋人がいる。または、いた。
だから、「恋人が欲しい」って言うんだ。
他の人の前では。
でも、それは愛情を求めているからではない。
それはただの、防衛本能。
人とはぐれないための。そんなこと、わかってる。
なら、逃してあげればよかったじゃん。
束になった新聞紙が口々に言う。
だって、俺を傷つけるんだぜ?
俺は何もしてなかったのに。
あんた、おかしいよ。異常者だ。
自分のことを棚に上げた、幾人かの男が言う。
異常者はあんたらだ。
あんたらがいなければ、アイツは逃げなかった。
あんたらが嫌いだから、あいつは逃げ出したんだ。
あんたらが嫌いだから、俺の、恋人は、逃げ出したんだ。
逃げ出したんだ。にげだしたんだ。逃げ出したんだ。ニゲダシタンダ。逃げ出したんだ。ニゲダシタンダ。にげだしたんだ。NIGEDASITANDA。逃げ出したんだ。
ボソリと俺は言った。
「恋人が欲しい」
見ないで おかしい?
見ないで おかしい?
誰も私のことなど見ないはずなのに
私は取るに足りない平凡な人間であるはずなのに
どうしてあいつらは私のことを見るのだろう
バスの中 電車の中
道で 駅で スーパーで
見ている
皆が見ている
私のことをちらちらと気にしている
服が変だった 髪が変だった
何かが変だった
社会の落伍者を責めている 非難している
違うそんなはずはない
私はいたって平凡な外見をしているはずだし
仮に社会の落伍者だったとしても外からはわからないはず
なのに見ている 見られている
ちらちらと見ている 視線が刺さる
私の体を貫通して
お腹の辺りまで突き刺さって
ねじ込んで息を止めてくる
恐怖がじわじわと私を侵食して
叫びだしたくなるが外なのでそんなことはできなくて
ただただ眉間に皺を寄せ下を向くばかり
耐えられない 視線に
一瞥だけでも耐えられない 苦しい
誰も私を見ないで 気にしないで
責めないで 苛まないで 見ないで
見る それすなわち気にする すなわち排除
視線を向けられた瞬間
私の精神はぼろぼろに崩れ
死に始める
邪眼を持ってるのは私じゃない
あいつらが持ってるんだ
私以外の全員の目が呪われている
どうして耐えられる?平気で生きられる?
呪われた社会で平静を保つなど不可能だ
だけど私は普通でいなければいけない
突然叫び出すなどありえない異端
普通でいなければいけない
落ち着いて 大人しく
聴き訳がよく 物わかりがよく
説明が簡潔で 健康で
健常で 誰にも迷惑をかけず
依存せず 一人で 自立して
生き続けなければいけない
普通でいなければならない
思考を回しても回しても
周囲の視線への恐怖は消えない
どんなに自分を責めてみても
容赦なくびしびし突き刺さる
結局私がどんなに自分を責めようと
反省してみせようと
外からの視線は何も変わらないのかもしれないけど
反省してみせることなど当然のことで
最低限で 存在し続けるためには
みんなの役に立たなければいけない
そんなことは私が一番よくわかってる。
だからこそ 役に立っていない今この瞬間
視線を恐れ 恐怖してしまうのかもしれない
思考 回しても回しても恐ろしくて恐ろしい
私は全身から針を生やし
視線を飛ばす人間全てに突き刺す妄想をする
それでやっとイーブン
なんて理不尽
何も悪いことをしていないのに
針で刺されるあいつらのことを
かわいそうにと私は思った。
日が暮れてブレーキランプだらけの道を
バスはごとごと進んで
家はまだ遠い
僕だけ残していったきみへ
未来、なんて不安定なんだろうか
なぜ 僕は 希望をもっている?
生物だから 生きる
生き残って 未来へ繋ぐ
今の僕には、叶わない
虚無感で潰れた心
寂寥感で満たされた心
僕の心が壊れた5年前
不幸がきみを対岸へと連れて行ってしまった
僕の世界に「約束」だけが残った
来世邂逅 出来たら良いな
言葉があるからきっと出来るよな
確かにきみも言ってたし
きみの声、あの時のトーン
記憶力良いんだよ、知ってた?
ここまで 生きて来た
きみとの約束は守ったよ
褒めて欲しい
褒めてくれる?
こんな身体になっちゃったけども
色んな事をきた
良い事も悪い事も
いっぱい、してきた
全部、見ててくれたよな?
全部、話してあげるから
心を許した人も居たんだ
でもね、踏み切れなかったんだ
きみが僕のほとんどを
持って行ってしまったから
抜け殻の僕には もう人を愛せる
資格なんて無くなってたんだ
きみの未来、僕の未来
一緒になろうね
長く待たせたなんて思わない
きみとの約束、守る為だから
今度は 二人、強い命で 生まれて来よう
約束だ きっとだ
きみと歩いたあの小路も
きみと渡ったあの橋梁も
全部、全部 覚えてる
今でも 一人で歩いてみたり
僕の指には2つの指輪
ここまで 生きて来たよ
きみとの約束守ったよ
褒めて欲しい
褒めてくれるよね
こんな身体になっちゃったけど
きみの未来、僕の未来
一緒になろう
長く待たせたなんて思わない
きみとの約束、守る為だから
今度は 二人、強い命で 生まれて来よう
約束だ
きっとだ