「 記憶 」
私が1番遠い記憶を思い出そうとすると、必ずと言って良い程、何処までも続く草原を思い出すのです。
周りには本当に何もなく、たった1本、青々と茂った大樹が静かに生えているだけでした。
その日は綺麗な青空が良く見えて、雲が優しく流れいるような、とても静かな場所でした。
もしかしたら風すら吹いていなかったのかもしれません。
そして今では顔を思い出す事すらできませんが、たった1人、少女がその大樹の下に静かに佇んでおりました。
そうして私はと言いますと、少し離れた所からその少女を延々と目続け、そして記憶は終わるのです。
そうです、その前の記憶も先の記憶もその少女との不思議な場所での記憶は全くないのです。
少女は微笑んでいたようにも、怒っていたようにも、困っていたようにも見えるのですが、今では確かめる術さえないのです。
ですが私には分かるのです。
必ず再びその少女と会うことができる事を。
真っ暗な空間、あるいは、真っ白な場所。
そこに私は座り込んでいた。
理由は分からない。ここがどこなのかも、私が何なのかも。ただ体は非常にけだるく、動かそうにも指一本動かない。
こんな場所には、私以外誰もいないだろう。そう思って、周りを見る。
――いや、一人いた。
私から少し離れたところに少女が一人、うずくまっていた。手足は細く、顔色も悪い。
少女は喘ぎ、骨の浮いた手で地に手を伸ばす。しかしそこには何もなく、空をつかんだ。少女の手はそのまま力なく地を這う。
私は唐突に悟った。少女はお腹をすかせているのだ。
あぁ、かわいそうに。何かあげられたらいいのに。でも私は何も持っていないし、そもそも体が動かない。
少女が重そうに頭を上げ、辺りを見回す。髪がバサリと前にかかり、顔を半分覆っていた。ぐるりと首を回し、ふと私の方を見た。
その瞬間、少女の口がだらしなく開き、眼球が飛び出すほど眼が見開かれる。少女は体をずるずると引きずるようにこちらに近づいてきた。
私の肩に手がかけられ、少女は私の上にまたがった。少女の白い手がそっと私の手を取る。微かに震える唇が私の指に触れる。そして少女の小さな歯が私の指先に立てられ、
――かりっ――
私の指先がかじられた。私の指は脆く崩れ、少女の口の中に入っていく。不思議と痛みはなかった。私の指先から砂のようなものがこぼれ、少女のスカートにかかる。こぼれていくのは――砂糖?
こぼれる砂糖を少女が惜しそうに舌を伸ばして舐め取る。口の周りや手を汚しながら、少しずつ私の手をかじる。
やがて私の体に覆いかぶさるようにしてむさぼり始めた。
私の手が、
ぱりぱり、しゃくしゃく、こくん
腕が、
ざくざく、もぐもぐ、がりっ
肩が、
むしゃむしゃ、ばりばり、ぺろっ
少女の中に収まっていく。
こぼれるのは砂糖ばかり。――私は砂糖菓子であったようだ。女の子の大好きな。
少女の目には貪欲な光が宿っている。こんな小さな体のどこにこれだけの物が入っていくのだろう。まぁいい。少女が満足してくれるなら。
ひどく甘い感覚の中、私はそっと意識を手放した。
街灯り
私の家の裏には長い滑り台のある高台の公園がある。
そこにいるとその地区のすべてが見える。
住宅区域、産業区域、発電区域と昼と夜ではそれぞれ違った様子を見せる。
住宅区域からは温かい灯りが漏れ、それがまとまっていたり、真っ暗な中にポツンとあったりする。
一つ一つは小さくてもそれが集まれば、大きな灯りになる。
しかし、いくら集まってもその灯り一つ一つ……街灯にさえ何かしらのドラマがある。
そのドラマは、小説のような話ではないが、人生という誰もが歩むドラマなのだろう。
私のリア充復讐劇in七夕
私は今まで七夕というイベント事に参加したことはない。
理由は至って単純でやっても無駄だからである。
やれお金が欲しい、やれ恋人が欲しいだの、
自分の欲望を願い先にぶつけるばかりで
努力をする気力も感じられない。
そもそも願い先を知っているかも定かではない。
願い先は織姫で、元々は習い事などが今よりも上達するように願う行事である。決して織姫に代行してもらい上達すると言った他力本願祭りでは無いのだ。
とまぁ、そんな不埒な奴らに天誅を下すべく、私は近くのショッピングモールに出向き、ロケット花火を買い込んだ。
使用用途は単純で、奴らが夜に笹の葉に短冊を吊るして精神的に楽になろうとしているところに撃ち込んで、自らの行いがいかに下劣で滑稽なことなのかを知らしめてやるためだ。
決行は20時に中川の土手。奴らの泣き叫ぶ姿が楽しみだ。
……と意気込んで20時に予定の場所へ到着。
予想通り他力本願のヤツらがウヨウヨと思い思いに願い事を短冊に書き込んでいる。
私は光の当たらない茂みに隠れ、双眼鏡で監視している。
…ややっ!あれは!
あれは私が片思いをしている春野さんではないか!
なぜあんなところに。
…んっ!?あの隣にいるのは……
龍ケ崎先輩ではないか。女遊びが激しいとの噂がある。
なぜ春野さんと一緒に……
んっ!?あっ、あぃつ、手を腰にまわ、まわして……
ゆゆゆるせんっ!そんな事は断じて許さない!
と一時の感情に大いに揺さぶられた私は、ロケット花火の導火線に火をつけ、発射を待つ。
……3,2,1,GO!
ロケット花火は見事土手に飛んでいき、突然の光に群衆は慌てふためいている。
やった!やったぞ!
神聖な行事を土足で踏み荒らす不埒なやつらめ!
そう喜んでいるのもつかの間、1発のロケット花火が空中で向きを変え、私の方に飛んでくるではないか。
着弾時に気づいたのでもう遅かった。
私の服は引火し、焦りと熱さでパニックになり、慌てて川へ走り飛び込んだ。
そういえば走っている時春野さんと目が合った気がする。
なんか呟いていたような……
「なにしているんですか。先輩。」
私…この世の恋愛、常識全てに疑問を抱きそれに反抗する大学生。反抗サークルという名のサークルに属している。
春野さん…私が気になっている歳が一つ下の後輩。
龍ケ崎先輩…イケイケ大学生。