見えない未来へ
進路を決めるのは苦痛でしかなかった。親に相談しても自分で考えろと言われる。日が経つごとに心の苦痛は大きくなっていく。
自分の学力は本当に通用するのか不安で仕方がないし、偏差値を調べるのが恐ろしくて勇気が出ない。
学校を見に行くのでさえ誰かについてきてほしい。一人じゃ心細いから。
でもどうだろう。何とかなると自分に言い聞かせて暮らしていたら、だいたいはどうにでもなる。親がそう言ってくれた。少し肩の荷が軽くなった気分だ。今の生活はその言葉で成り立っている。未来に進むのが何か楽しみだと思えるようになった。
吹き抜ける風
この日、一人息子が旅立った。列車に乗り込んだ息子が窓から手を振っている。思わず振り返してしまい、また帰って来るのだと必死に自分に言い聞かせる。
列車が発車し、加速していく。息子がどんどん遠ざかって見えなくなる。
列車のせいで風が吹き抜ける。肩まで下ろした髪の毛が乱れてしまう。この乱れた髪を整える気も起きなかった。今の私の気持ちはこの髪と同じように乱れている。
大切な息子が無事に帰って来ると言い聞かせて髪を整える。もう既に風は止んでいた。
冬へ
冬に向けての大掃除。
落ち葉をかき分け、寝床を作る。
秋の間にどんぐり集めて。
土の中はポカポカと湿って。
次の朝日を拝むまでの永い眠り。
寒さとの戦いはこれから始まる。
君を照らす月
夜道を歩き続けて、ようやく辿り着いた。道中、車が故障してしまったときは焦ったが、なんとか屋敷に着いた。
自分だけの新しい城だと思うと、胸が高鳴る。必死に稼いだ金を自分の好きなことに使えるのだ。興奮して何が悪い。という感じに、誰もいないのにぶつぶつと独り言を言うのも悪くない。
さあ、前触れはこんな感じで良いとして、中に入ろう。しかし、広い屋敷だなと感心してしまいそうだ。だが、何かが出そうな雰囲気だ。何かと幽霊が苦手なのに、なぜこんな広い屋敷に一人で来ようなんて思ったのだ。と、文句を言い、一つ一つ部屋を見て回った。
「あ。」
ある部屋の扉を開けた途端、椅子が勝手に動いた。全身に鳥肌が立った。急いで扉を思いっきり閉めた。ありきたりすぎる仕掛けに思わず笑ってしまう。
「そんなわけ…ないよな。うん。ないはず。ハハハ。」
冷や汗をかき、確認のためにもう一度扉を開けてみた。すると、長い黒髪の女性がいた。これはもう、はっきりしすぎている…。
「ギャー!」
と、大声で叫ぼうとした。が、幽霊が人差し指を口に当てて、「静かに」とジェスチャーをしたので、叫ぶに叫べなかった。
幽霊が手でこっちに来い、と呼ぶので恐る恐る幽霊の隣に行った。窓の外には大きな三日月が見えた。どこの部屋から見ても、ここまで大きな月は見えなかった。この部屋だけ、こんなに大きく見えるのかと感心してしまった。
ふと、幽霊の方に視線を向けると、とても美しく、触ったら壊れてしまいそうな肌で、月を見ていた。月の光が差し込んでいるからか、まるで人間のようだった。
木漏れ日の跡
木漏れ日を見て思い出す。誰かの影法師が重なり、影が笑っていたり、泣いていたり。光と影が織りなす様々な表情は、知っている人の顔に見えたりする。