◤愛◢
優越に浸りました
女の末路でした
不幸の遠い女でした
劣等に嵌りました
男の末路でした
幸の薄い男でした
夜は平等に訪れます
不幸は不平等に訪れます
朝は平等に訪れます
幸は不平等に訪れます
貴方の目には見えているでしょうか
私の目には見えているでしょうか
貴方は手を差し伸べるでしょうか
私に手を差し伸べるでしょうか
いいえ
愛は平等に訪れます
愛は不平等に訪れます
愛は平等に訪れます?
愛は不平等に訪れます?
貴方次第
テーマ:優越感、劣等感
◤反対か内側◢
正解を探す旅へと
バスに乗っては歩もうと
田舎に行ってはしゃがもうと
辺り見回し夢を見ようと
高々数分の悪あがきの匂いは
実は案外悪くはなくて
旅で見つけた失われし物
夢の欠片を彷彿とさせん
落下の心地も似ているかもね
浮遊感も無敵ではない
無敵を振る舞う反重力に
はたまた示す反物質に
幾度となく振り回された
ひらりとする服の内側
テーマ:落下
【眠りましょう、眠らせましょう】
「一人ぼっちは寂しいけど、二人ぼっちだとワクワクしない?」
そうでしょ、と同意を求めるような君の目を見つめ返せば、恥ずかしそうに逸らしてしまった。いつも表情豊かな子だな、と好ましくは思っていたが、こんな状況は望んでいない。
「ねえ先生、此の儘二人で死んじゃうのかな?」
「バカ言うな。ドラマの見すぎだ」
いや、ドラマならどっちかだけ助かるのか? どうでもいいが。
「ねえ先生、心中って来世でも一緒になりたい男女がするんだって」
「前も言ってたな。そんなこと」
うん。と可愛らしく頷く君は、矢張り聖母より小悪魔の方が似合うと思う。学校の男子共はもう少し見る目を養った方が良さそうだ。それだからこんなのに騙される。
「あ、なんか悪口思ったでしょ」
「……思ってない」
一歩近づいてきた君に、一歩距離を取れば悲しそうな顔をされた。そういう所がずるいのだ。
「今だけだからな。あんまり離れると寒くなる」
「照れ隠し〜?」
嬉しそうにニマニマとする顔が憎たらしい。が、どうも可愛く見えてしまうのはこの緊急事態だからだ。そうでなければ、自分の教え子に想いを揺らされるなんて有り得ない。
「救助が来るから、それ迄な」
「はーい」
随分良さそうな機嫌を最後に、君は眠ってしまった。これでも疲れて緊張していたのだろう。俺なら教師と二人きりで遭難なんて絶対嫌だ。
「大人は狡いから、お前なんかコロッと転がされちまうぞ」
頭を緩く撫でた。もし起きていたらセクハラだと騒ぐかもしれない。俺の想像の中の君は、現実の君より元気だから。
眠った君を見ていたら、俺も段々眠くなってきた。君の言っていた通り、此の儘二人ぼっちで死んじまうのかもしれないなんて、非現実的なことを考える。
次第にカクカクと頭が揺れ、俺の意識も夢の中へと旅立った。
眠りましょう。眠らせましょう。
テーマ:二人ぼっち
【泡沫の夢に】
「あら、今日の香水はいつもと違うのですね」
「ええ、内緒ですよ」
香水の名前は濁して答えた。この香水は、ホワイトリリーだったから。何処で移ったかしら、なんて考えるまでもない。ここまで上手くいくなんて考えもしなかった。
「では、急いでいるので」
社交辞令の笑みを浮かべて、其の場を足早に去った。欲を言えば、なんていくらでもあるけど、其れが叶わないことは私が一番分かっていた。解っていたから。
家に戻って荷物の準備をして、持って行けるだけ詰めたキャリーケースを窓から放り投げた。ゴトンと大きな音がして、傷ついたかもと一瞬焦るが、これからは気にしなくていいことを思い出して自嘲した。
「涼花、お勉強の時間ですよ」
部屋の外から母の声が聞こえる。怒りが滲んでいる気がして、ああ、いつものか、なんて思った。もう其れにも怯えなくて良いのだ。
「今行きます」
「頼みますよ」
呆れたような母の声に、行くわけないと心の中で悪態をついた。口にできるほど強くは無いから。
窓から近くの木に乗り移って、急いで地面まで降りた。ここからは、私が見つかるのが早いか、逃げ切るのが先かのスピード勝負だった。
幼い頃は何度も木に登って怒られたが、とても役に立ったので過去の私にイイネをした。家という歪な世界しか知らなかった過去の私に伝えたかった。
キャリーケースを持って、靴を履いて着の身着のまま逃げ出す。着替えは近くのトイレでする。たぶん私に出来ることなんて其れくらいで、後は運次第だ。
街中を早歩きで移動する。偶に我が家の使用人が街に買い物に来ていることがあり、見つかると全てがパーになるからだ。
海か、崖か、川か。自然の中がいいとは思うが、見つけて貰えないのも其れは其れで嫌なのだ。
街中でホワイトリリーの香りがふわりと香って、すれ違った男の影に彼を感じた。懲りない女だと自分でも思う。仕方がないかと嗤って、
そのまま急いだ。彼の匂いも熱も覚えたまま、この泡沫の夢から醒める前に、この世界から消えてしまいたかった。
テーマ:夢から醒める前に
◤倫理に背くわけ◢
小学校の頃の道徳の授業の内容を時々思い出す。お金より大事なものは何か。あの頃は愛や信頼と答えた気がする。
☆。.:*・゜
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
子どもと妻の声を耳に家を出る。何よりも大事な二人だ。だがふと、心がマイナスに近づいた時に、お金と天秤に掛けたらお金が勝ってしまうかもしれないと思うときがある。
彼女は、お金があるから俺に近づいたのだ。そばに居るうちにお互い情が移ったとしても、関係の始まりが変わる訳では無い。俺がお金を持っていたから出会い、恋に落ちたのだ。
俺の人生は課金ゲーだ。教育、習い事、環境、様々なことにお金を注がれてきた。そんな俺がお金よりも大事なものがあるんだと言うのは、あまりにも傲慢であり周りが見えていないのだと思う。
「会社まで」
何時ものタクシーの運転手に行き先を告げる。車は音も立てず、ゆっくりと発進した。
「実は最近、孫が生まれたんですよ」
おじいちゃん運転手が嬉しそうにそう言った。かれこれ十年以上の付き合いだが、もうそんな年齢になったのか。可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。ゆるゆるの口元は、事情を知らない人から見れば、気持ち悪いくらいになっている。
「あの子のためなら何でもやってあげられると思うんですよね」
それは分かる。俺だって思っている。妻と子どものためなら何だってやってあげられる。
お金には、勝てないかもしれない。それは俺だけのものでは無い。俺の先祖から築き上げた財産だからだ。だが自分の命と引き換えならば救ってもいいと思うくらいには大事なのだ。
「今日はいつもより優しげですね」
「そうか?」
纏う雰囲気を指摘された。確かに、初孫の報告のお陰か、俺の心もだいぶ和んでいたのかもしれない。
「いつも助かってる」
「いえいえ、こちらこそですよ」
その後、無言の時間が続く。どちらかと言えば、何も話さずに会社へ向かうことの方が多い。今日がイレギュラーなのだ。
「いってらっしゃいませ」
「いってくる」
笑顔に送り出されて、俺は今日も金を稼ぎに行く。
テーマ:お金より大事なもの