堕なの。

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◤倫理に背くわけ◢

小学校の頃の道徳の授業の内容を時々思い出す。お金より大事なものは何か。あの頃は愛や信頼と答えた気がする。

☆。.:*・゜

「いってきます」
「いってらっしゃーい」

子どもと妻の声を耳に家を出る。何よりも大事な二人だ。だがふと、心がマイナスに近づいた時に、お金と天秤に掛けたらお金が勝ってしまうかもしれないと思うときがある。

彼女は、お金があるから俺に近づいたのだ。そばに居るうちにお互い情が移ったとしても、関係の始まりが変わる訳では無い。俺がお金を持っていたから出会い、恋に落ちたのだ。

俺の人生は課金ゲーだ。教育、習い事、環境、様々なことにお金を注がれてきた。そんな俺がお金よりも大事なものがあるんだと言うのは、あまりにも傲慢であり周りが見えていないのだと思う。

「会社まで」

何時ものタクシーの運転手に行き先を告げる。車は音も立てず、ゆっくりと発進した。

「実は最近、孫が生まれたんですよ」

おじいちゃん運転手が嬉しそうにそう言った。かれこれ十年以上の付き合いだが、もうそんな年齢になったのか。可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。ゆるゆるの口元は、事情を知らない人から見れば、気持ち悪いくらいになっている。

「あの子のためなら何でもやってあげられると思うんですよね」

それは分かる。俺だって思っている。妻と子どものためなら何だってやってあげられる。

お金には、勝てないかもしれない。それは俺だけのものでは無い。俺の先祖から築き上げた財産だからだ。だが自分の命と引き換えならば救ってもいいと思うくらいには大事なのだ。

「今日はいつもより優しげですね」
「そうか?」

纏う雰囲気を指摘された。確かに、初孫の報告のお陰か、俺の心もだいぶ和んでいたのかもしれない。

「いつも助かってる」
「いえいえ、こちらこそですよ」

その後、無言の時間が続く。どちらかと言えば、何も話さずに会社へ向かうことの方が多い。今日がイレギュラーなのだ。

「いってらっしゃいませ」
「いってくる」

笑顔に送り出されて、俺は今日も金を稼ぎに行く。


テーマ:お金より大事なもの

3/8/2024, 11:21:59 AM