◤脆く危うい真実を◢
「貴方は永遠に私を愛してくれますか?」
皆に聞く問いをこの男にもかけてみた。今まで私の満足する答えを出せた者はいなかった。
「はい」
そう言うに決まってる。人は愛というものを不変の真実と思ってしまうのだから。
☆。.:*・゜
「分かりません」
永遠に愛せるか、未来のことなど我々には分からない。それでも愛しいと思い、未来でも一緒にいたいと思い、告白に至った。この答えが女性の理想とは離れているのであっても僕は自分に嘘はつけなかった。誠実でいなさいという母から言われた言葉が、今でも心の片隅にいる。
「ふふっ、いいよ。付き合おうか」
訳が分からなかった。永遠など誓えないと言ったのになぜ受けようと思ったのだろうか。彼女は一体、、、
「君だって思ったのだろう。未来は誰にも分からないものさ」
彼女の笑顔は好戦的で、何かを企んでいるようなキラキラとした笑顔だった。
◤君と私の夢の街◢
煌びやかなネオンが街を彩る。その中でふらふらと歩く私は二日酔い三徹目の社会人。二日酔いにも関わらず今日も接待に付き合わされていた。
「まだまだ行けるよな」
上司の煽る声を朦朧とした頭で聞く。視界は定まらず、もう一切飲めないことは明らかである。
「よし、二軒目は」
「すみません、俺は抜けさせていただきます」
そんな私の神の救いになってくれたのは相手社の人だった。彼も新人だが私とは違って優秀な人でよく上司に引き合いに出されている。
「そうか、じゃあその子も送ってやれ」
「まだまだ飲めるだろう?」
相手社の社長が私が帰れるように取り計ろうとしているが、うちの上司はそうなこと許さない。
「この子だって最後おじさんに送られるより若い子同士の方が楽だろ。お前の相手は俺がしてやる」
うちの上司は丸め込まれ、私は一足先に帰れることとなった。
「すみません。ありがとうございます」
「いえいえ、そんなことないですよ」
涼し気な笑顔を浮かべる彼は会社でさぞモテていることだろう。私なんかが隣にいてはファンに殺されてしまう。
「あの、一人で帰れま、、、」
「送ってくよ」
説得の余地も与えられず、大人しく送られることとなった。しかし、ほとんど交流のない人と二人きりで無言の空間が続くのはキツいものがある。
「ペットは飼っていますか?」
「ペット?」
「はい。俺は犬を飼いたいと思ってるんですけどマンションがペットNGで」
「そういうことありますよね。私も昔は猫を飼っていたんですけど今のアパートペットNGなんですよ。今でもずっと飼いたいなとは思っていて」
脈絡のない話だったがないよりはマシで、さっきの気まずい空気もどこかへ霧散していった。
「なるほど。じゃあ理想の生活はペットと暮らすことですか?」
「理想の生活ですか。そうですね。好きな人と二人っきりで思いっきり愛されたいです。辛いことなんて何もなくて。そんな世界で」
「いいですね。俺もそんな世界がいいです」
「好きな人がいたんですよ。悠斗って名前の男の子なんですけど、すっごく優しくて」
「いいですね」
ニコリと笑った彼の笑顔が視界を埋める。それと同時に体から力が抜けて意識も黒く塗りつぶされていく。
「飲み過ぎですよ。他の男なら襲われてます。でも大丈夫。俺があなたの願いを全て叶えてあげますから」
ただ、彼の笑顔を怖いと思った。でも何にも抗えなくて意識は落ちた。
☆。.:*・゜
「大好きですよ」
俺は彼女の体を抱き上げた。しかし、俺を好きと言ってくれるなんて嬉しい限りだ。随分昔のことだと言うのに彼女の頭にいるというのは嬉しい。
「でも俺のこと気づいてくれなかったからな。俺は一目で気づいたのに」
お仕置だと心の中で微笑みながら俺の家に向かった。もう一生離さないと誓って。
テーマ:理想郷
◤みかん専門店◢
そこには各地から色んな蜜柑が集まってくる。甘い蜜柑、酸っぱい蜜柑、苦い蜜柑。そこに行けば探しの蜜柑が必ず見つかると噂の専門店だった。
その日、一人のお客さんが訪れた。そのお客さんはおばあちゃんで、優しい笑い皺が目立つ人だった。子どもの頃に食べた、甘い思い出の蜜柑を探しているようだった。地元や大きさを聞いたあと、店主が店の裏からいくつかの蜜柑を持ってきて食べさせた。お客さんは違うと言う。
店主は少しだけ悩んで、一つの蜜柑を持ってきた。それは苦くて、まだまだ若い蜜柑だった。それだと言うのに、お客さんは顔をくしゃっとさせて笑った。まるで懐かしさに浸るように目尻に涙をためながら。
ベルが鳴ってお客様が帰られると、店主は椅子に座ってコーヒーを一口飲んだ。そして、近くに置いてあったビターチョコレートを口に放り込んだ。
「苦いものを飲んだ後は、苦いものを食べても甘く感じることがあります。戦後まもないとき食べた蜜柑は信じられないほど甘かったのでしょうね」
店主は誰もいない店の中でそう呟いた。
◤勇者の裏側◢
「物資の搬入は?」
「終わってます!」
「明日の分の御者は?」
「手配しました!」
「雑魚モンスターの間引きは?」
「担当の者が現在行っております!」
「早く終わらせろ!」
これは魔王討伐の裏側で働く人たちのもう一つの物語
テーマ:もう一つの物語
◤君の香り◢
家に帰れば紅茶の香りがした。それは今日も私の心をくすぐるあの香りだった。香りを胸に沈めてカップを持つ。少しだけ渋いストレートティーはまるで私と彼の近づかぬ関係のようで心の痛みに優しく染みていく。少しずつ少しずつ重くなって、彼のようなこの紅茶を気配に感じながら一時の恋心に浸った。
明日はお見合いの日だった。