堕なの。

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◤みかん専門店◢

そこには各地から色んな蜜柑が集まってくる。甘い蜜柑、酸っぱい蜜柑、苦い蜜柑。そこに行けば探しの蜜柑が必ず見つかると噂の専門店だった。

その日、一人のお客さんが訪れた。そのお客さんはおばあちゃんで、優しい笑い皺が目立つ人だった。子どもの頃に食べた、甘い思い出の蜜柑を探しているようだった。地元や大きさを聞いたあと、店主が店の裏からいくつかの蜜柑を持ってきて食べさせた。お客さんは違うと言う。

店主は少しだけ悩んで、一つの蜜柑を持ってきた。それは苦くて、まだまだ若い蜜柑だった。それだと言うのに、お客さんは顔をくしゃっとさせて笑った。まるで懐かしさに浸るように目尻に涙をためながら。

ベルが鳴ってお客様が帰られると、店主は椅子に座ってコーヒーを一口飲んだ。そして、近くに置いてあったビターチョコレートを口に放り込んだ。

「苦いものを飲んだ後は、苦いものを食べても甘く感じることがあります。戦後まもないとき食べた蜜柑は信じられないほど甘かったのでしょうね」

店主は誰もいない店の中でそう呟いた。

10/30/2023, 1:05:44 PM