「あの人、好きな人いるんだって」
今にも死にそうな絶望的な顔でそう溢した彼女に「お前だよ」と言うのを我慢して「え!そうなんだ!?」と白々しく返す。私の技術レベルなしの演技にも気付かず彼女はそおなの…とやはり死にそうな顔で呟いた。
「その人、真面目で何にでも一生懸命なんだって」
「聞いたの?」
「聞いたの…。それで、ちょっと鈍感で抜けてるとこもあって、そういうとこが可愛いんだって」
特徴言い過ぎだろと思いつつも顔には出さずそうなんだ~とやはり白々しく返す。そんな私の声が聞こえているのかいないのか、彼女はさめざめと顔を覆った。
「だってさぁ、それって絶対みなちゃんじゃんね…」
「ヴァ」
馬鹿かよ、と嘘だろ、が混ざった私の奇声にやはりやはり気付かない彼女はちょっと鈍感なんて可愛いもんではないのである。
いいこだね、えらいね、すごいね、かわいいね、とひとつ下の幼馴染みを大事に大事に扱ってきた。
驚くくらい真面目で、いつもたくさん頑張ってて、それなのにどこか報われなくて、綺麗なのにどうにも目立たない、そんな子だった。立派なご両親ととっても器量の良い兄弟に囲まれてることもあって不出来だと周りに責められる子だった。そんなことはないのに、真面目すぎる性格のせいでその全てを真正面に受け止めるので自己肯定感がやたらと低かった。それが歯痒くて腹が立って悲しくて。
いいこ、いいこ。いつも頑張っててすごいよ。俺はちゃんと見てるからね。真面目にやっててえらいね。そう誉めて誉めて誉めそやして、その結果。
「俺、アイドルになろうと思うんだ」
何でそっちにかっ飛んじゃったかな。
「ねえ待って無理しんどい」
「その台詞オタク以外から出ることあるんだ」
一緒に走ろうね、という約束を守るべく私の腕を掴んだ友人を見ながらそう呟いた。
こっち見てくんないかな、と横顔を見て思ったり。複数人いる時に自分の名前を呼んで声を掛けてくれただけで舞い上がったり。売っているお菓子を見てこれ好きそうだな、と考えたり。
そんな、そんな小さなことで浮かれてにやけてどきどきして。
「今片想いが楽しすぎるから、まだあなたとは付き合えません」
「うそ…両想いなのにフラれるの俺…?」
「俺が幸せにしてあげようか」
「プロポーズ?…えっ具体的には?」
「手始めに家電売場にあるシャアのマッサージチェア買ってあげる」
「最高~!!!すぐ結婚しよ!!!」