「ね、今日はありがと」
「なにがぁ?」
半分くらい夢うつつの彼女がぼやりと返す。化粧を落としたその顔があんまりにもかわいいから、ふくふく笑って頭を撫でた。
「初めて連絡なしでうちに来てくれたから」
「なぁにそれ。連絡しろって怒るならともかくさぁ」
「それなら鍵渡さないでしょう。…ね、これからもいつでも来ていいんだからね」
8割ほど夢うつつの彼女が少しの後、うん、と小さく溢したのが聞こえた。かわいくて、愛しくて、目の奥がじわりと滲んだ。
「恋人の誕生日プレゼントの相談、乗ってほしいんだけど」
私が「いいよ」ということしか想定されていない言い回しにひくりと頬が引き吊る。ただでさえ減っている私との時間にあんなぽっと出泥棒人間の話をよく出来るものである。全くもって信じられない。あり得ない。勿論、ただの友達である私は「いいよ」という他ないのだけれど。
「ありがと!初めての誕生日だからやっぱりちゃんと喜んでほしくてさ」
あーあ、嫌いなあいつの話より小学生の頃みたいに好きなポケモンとかの話とかしたいのになあ。
「ね、天気がいいから遊びに行こうよ」
そう笑っていたあの子の声を忘れたくなくて、今日も真っ暗な部屋の窓を開けた。
「あの人、好きな人いるんだって」
今にも死にそうな絶望的な顔でそう溢した彼女に「お前だよ」と言うのを我慢して「え!そうなんだ!?」と白々しく返す。私の技術レベルなしの演技にも気付かず彼女はそおなの…とやはり死にそうな顔で呟いた。
「その人、真面目で何にでも一生懸命なんだって」
「聞いたの?」
「聞いたの…。それで、ちょっと鈍感で抜けてるとこもあって、そういうとこが可愛いんだって」
特徴言い過ぎだろと思いつつも顔には出さずそうなんだ~とやはり白々しく返す。そんな私の声が聞こえているのかいないのか、彼女はさめざめと顔を覆った。
「だってさぁ、それって絶対みなちゃんじゃんね…」
「ヴァ」
馬鹿かよ、と嘘だろ、が混ざった私の奇声にやはりやはり気付かない彼女はちょっと鈍感なんて可愛いもんではないのである。
「ねえ待って無理しんどい」
「その台詞オタク以外から出ることあるんだ」
一緒に走ろうね、という約束を守るべく私の腕を掴んだ友人を見ながらそう呟いた。