晴れやかな空に、色鮮やかな花。遠くからきこえる子どもの笑い声。
木々からこぼれ落ちる陽の光に私は目を奪われる。
鳥が鳴き、車が走り去っていく。
そのひとつひとつに、物語があり、日常はある。
きっと私の知らない日常はそこかしこに転がっているのだろう。
公園の木のしたで、私は目を閉じた。
私の大切な人たちと、私の知らない人たちのことを想った。
だれも泣いていませんように、傷ついていませんように。
私はひとり願っていた。
「へえ、なんか白すぎない?もっとさ、赤とか青とかカラフルな色とか入れたら」
引っ越してはじめて友達を家によんだ。
「白すぎてなんだか落ち着かないし、怖いよ」
ベッド、ソファー、タンスとすべて白で統一された部屋を見て、彼女は肩をすくめていた。
彼女が帰ってから僕は白い部屋を見渡す。そうなのか、落ち着かないのか。ベッドに寝転がってそのまま目をつむった。しかし彼女の言葉が頭から離れなかった。
「おいしいお茶が手に入ったから家きてよ」
隣の席に座る佐々木くんが爽やかに言う。佐々木くんと僕は数回話した程度の仲で、だから急に誘われ驚いた。
興味がそそられ、彼の家へ行くことにした。
「やあいらっしゃい」
涼しげな風が吹いた。風すらあやつれるなんてさすが佐々木くんだ。
靴を脱いでお邪魔すると、そこは魔の世界だった。
普段の彼からは想像できないほどに真っ黒な部屋。
「なんか怖いって言われたことない?」
佐々木くんは振り向いて首をかしげた。
「君は怖いって思うの」
「いや、僕はそう思わないけど」
ふうん、と佐々木くんが背中を向けて部屋の奥へ行ってしまった。
不躾ながら、キョロキョロとあたりを見回す。
「あ、そこ座っててよ。あとはい、お茶」
佐々木くんと僕は向かい合わせて座布団に座り、お茶をすすった。
「好きなんだよね、黒。かっこいいじゃん」
確かに佐々木くんの言うとおり、黒で染まった部屋はかっこいい。そしてあっさり好きと言えるのもかっこいい。
「あはは。なんだそれ。君の好きな色は?なに」
お気に入りのふかふかなソファーに身をゆだねる。
佐々木くん。僕の好きな色はね、白。この壊れそうな白が好きなんだよ。
暑さで視界が揺れる。気が遠くなりそうになりながら階段を下りていた。
足裏から感じるかたさを頭の片隅におきながら、一歩一歩足を踏み出す。あと半分くらいでたどり着く。
その瞬間、バランスを崩しずるりと滑り、落下。ゴロゴロと転がり至るところをぶつけ、地面の上で仰向けになっていた。
やけに青い空のした、自分の体の無事を祈った。