詩のようなもの0026
もう一歩のところで
私はある道のプロを逸した
志は貫きたかったが
生きていかなきゃならなかった
違う道で食べていくことを
選んだけれど
それはそれで楽しかったから
別に悔いはない
むしろ
今となってはよかったとさえ思ってる
でも
あと一歩
あと一歩届いていたらと
別の人生を歩くもう一人の私が
妄想の中で時折息を吹き
良かったり悪かったりする局面を
見せてくれる
勝てなかったけれど
頑張った過去の自分は
確かに存在していて
負けた私は強くなった
今の私を支えてくれるのは
あの時の無我夢中
詩のようなもの0024
彼の故郷は
私には見知らぬ街
だけど
すごく深いご縁で結ばれている気がする
彼を育てた場所だから
彼の物語があちこちにあるはず
学舎も
通学路も
泣きながら走った浜辺も
歌いながら帰った山道も
どこもかしこも
ありがとう
彼を彼にしてくれて
詩のようなもの0023
アジア特有の湿度を
全部消した部屋の中で
窓一面ガラスだから
遠雷のショータイムの迫力ときたら!
異国の特有の雨がプロローグ
激しく競い合う稲妻たちは
大きな空を舞台に次々と落ちていき
光と雨と轟音の烈しく見慣れぬ風景を
最初は固唾を飲んで見守ったけれど
「凄いね」「凄いよ」
でもひと月を経て
もはやそこに感動はなく
中途半端な長期の旅人は
ベッドの上に体育座りで
雨が止むのを待つのだ
夕飯を食べに行かなくちゃならない
屋台は軒並みいなくなってるだろう
市場まで行くか食堂か
あ、遠雷
詩のようなもの0022
真夜中の散歩は
ちょっとした冒険になる
終電も行ってしまった街に
まばらな人影
仁王立ちして
私は主人公になる
大都会の真ん中には
ビルがあって
入り組んでいる首都高があって
まずは大きな世界に目もくれず
歩き出すんだ
高速を右に見ながら
郊外に向かって歩いていく
青く黒い深夜の空
人はどんどんいなくなって
東京を独り占めしていくんだ
昼間は車で溢れる幹線道路も喧騒も
それこそ姿も音も神妙に消え失せて
頼りない街路樹と街灯
時折すれ違う車
歩道を歩けばタクシーも拾えない
ガランとしたコンビニは無人のようにも見える
自分の足だけを頼りに
家まで帰るんだ
世界は私のものだ
どこまでもどこまでも歩いていける気がする
いつの日か
こんなふうに天国まで歩いてゆけるならいいな
詩のようなもの0021
2019年
君は誇りを胸に飛び立っていった
コロナの影響で空港は人もまばらで
グランドスタッフが何人も何人も
入れ替わり立ち替わり
君の世話を焼いてくれていた
順風満帆とは言えない旅立ち
だって世界中コロナが猛威を振るっていて
そんなときに仕事のオファーを受けて
海外に行くなんて
それでもやりたいことがそこにあって
そのために頑張ってきて
認められて
大きなチャンスが来たのだから
命懸けで頑張らなきゃな
セキュリティをくぐる前
これが最後のハグで
本当にもう二度と会えないかもしれないと思ったら怖くなって震えたけれど
君は終始笑顔だったし
私も不安そうな顔などしないよ
何があってもこっちは大丈夫
もう日本には戻ってこなくていい
戻って来てなんて願わない
その覚悟で見送った
一回も振り返らずに
真っ直ぐに前だけ見て
君がゲートをくぐっていった
大人になった君を見送ったあと
しばらくそこにいて
それから
涙が枯れるまで泣いたんだった