「蝶よ花よ」
蝶よ花よと愛でられたであろうあなたは。
私の心臓をちくちく刺した。
大きい瞳に映った蝿は。
ちょっと素敵な化け物だった。
蝶よ花よと愛でられたくて。
貴方の隣の地位をもらった。
裏ではあなたの悪口がランデブーしてた。
クラスのグルラに貴方はいなかった。
蝶よ花よと愛でられていても。
貴方の心臓は痛がりでしょって。
そんなの貴方が分かっていたから。
そっと涙を少しすくった。
蝶よ花よと愛でられるより。
二人でリボンをゆるく結ぼう。
蝿の私に居場所をくれたから。
私もグルラを抜けてやろう。
蝶よ花よと愛でてやるから。
蝶よ花よと愛でてほしいな。
蝿よ塵よと言うやつなんて。
見ないフリして泣きましょう。
蝶よ花よと愛でられたいなら。
貴方をずーっと愛でてやるから。
二人の低い体温をくっつけて。
指を絡めて遊びましょう。
「遠い日の記憶」
思い出したくなくなって。
ぎゅっと頭の隅にしまって。
お前の笑顔が滲んでった。
肺の中がぎりぎりした。
みー。
そう俺を呼ぶ声は優しかった。
おいで。
夜空にふたりぽっち、砂浜に寝転がった。
それだけで良かった。
ゆー。
俺は小さく呟いて。
そしたら空っぽにしてた心が熱くて。
涙腺の蛇口を無理やりしめた。
お前の涙が、脳裏にいた。
ゆー。
泣かないでとお前に言った回数だけ。
俺と一緒に泣いてくれ。
世界不適合者の俺たちだって。
泣いたっていいに決まってる。
みー。
そう俺を呼ぶ声が、夏の奥底に。
細くて脆そうなお前の手が。
今でも頬にいるから。
ゆー。
間違いなくお前は俺を大好きだから。
ふわりと浮かんだ宇宙に逃げよ。
嘘つきで泣けない俺たちだって。
居場所を作っていいに決まってる。
みー。
ゆー。
それだけでなんとなくわかるから。
えすおーえすはいらないから。
いつでも一緒になけるから。
いつでも一緒にしねるから。
そんなこと言ってたのに。
ふたりぽっちまいなすいち。
心臓の隅に乾いた涙がひりついてるから。
もー、いきたくないよ。
そっちいかせろよ。
これまでずっと
これまでずっと、ふたりで痛くて。
「ゆー」「なあに」「ううん」
それだけで、心臓が壊れそうで。
夏のフォルダに降下した。
これまでずっと、ふたりで居きにくくて。
どこにも多分、居場所がないから。
サイダーの泡になって、ぱちぱち。
……うあ。うあ、あ。
これまでずっと、ひとりで亡いてて。
きっとどこでも生きていなくて。
「俺はモルテンより、ミカサがすき」
あー、そーいうとこ、嫌いだ。
これからずっと、ふたりでいたくて。
手を繋いでも、意味はないから。
涙を宇宙に還元してみて。
ヘッドフォンの、奥に隠れる。
これからずっと、ふたりで生きたくて。
あー。泣かないで、とは言えないんだろ。
ぶわあ、と溢れた涙は、誰にも見えず。
お前が青く、塗りつぶして。
これからずっと、ふたりで泣いて。
そーすれば、少しは明日を憎めるから。
布団の中で、ふたりで青く。
夏のフォルダに飛び込んで。
「ゆー」
「なあに」
「すきだよ」
「そっ、か」
「後悔」
後悔するならやればいい。
面白い方をやればいい。
運動神経学年最下位の私。
バレー部レギュラーになってたし。
頭が悪くてくるくるぱー。
学年一位になってたし。
努力してればなんとかなるさ。
報われなくてもいいんだよ。
後悔するよりずっといいだろ。
やってみるんだ。
とりま、やってみるんだ。
面白い方へと脳死状態で突き進め。
好きな方へと馬鹿正直に突き進め。
後悔してる、場合じゃないだろ。
「子供のままで」
子供のままで。
大人になれずに。
炭酸と夏とお前の中で、静かに泣いていたかった。
−ツラいときは、俺んとこ来なよ。
お前は大人でわかってた。
俺は子供でわかんなかった。
いつかサヨナラするコトだとか。
夏は静かに消えるコトとか。
−ずっと一緒にいてーなあ。
そんな嘘を吐くお前を。
信じた俺は、子供なんだろ。
淋しそうに笑うものだから。
俺は大人に何も言えずに。
お前の胸に、顔をうずめていたかっただけ。
青い夏に酔っていたくて。
青い夏に、酔って痛くて。
本音なんていらなかったから。
嘘だけ吐いて、夏を歌った。
大人のお前がいなくなってから。
俺の心臓は少し痛くて。
青い炭酸に溺れたみたいに。
いつも、ぱちぱち泣いている。
二人で子供のままだったらさ。
炭酸に溶けて、消えていけたか。
何も考えずに、夏になれたか。
子供の俺には、わかんなくって。