25日目
ある日私は、彼を殺した。
優しくて、かっこよくて、背が高くて、頭が良くて、誰からも好かれる完璧なくらい素敵な彼を。
理科準備室で殺した。
その事件以来、生徒も、先生も立ち入り禁止になった。
犯人は分からない。
証拠もない。
ただ、彼の、彼の身体から溢れ出た血の跡だけが、理科準備室に残っている。
それ以外は何も残っていない。
私のものだと確信がつくものは何も残していない。
完全犯罪だ。
私は、彼を愛していた。
ただ、愛し方が違ったのか、?
なぜ私は彼を殺さなければならなかったのか。
なぜ彼は、私に殺されてしまったのか。
何度考えても理由が分からない。
目を瞑ると彼を殺した時の光景が瞼の裏に浮かぶ。
温かかった。彼の身体から溢れ出る血は。
でもすぐに冷たくなってしまう。
私は今でも、あの感覚が忘れられない。
あの温かさをもう一度。
24日目
「良いお年を」なんて、人の幸せを願う言葉なんて私の口からは絶対に言わない。
私は人生で1度も「良いお年」が来たことがない。
毎年毎年何が原因なのか分からない。厄年でもない。
ただただ、この1年幸せだったな。
なんて思える年がないのだ。
私が不幸なら、友達でも赤の他人でもみんな不幸になってしまえばいい。私以外が幸せになることなんて許せない。
そう思っているくらいだ。だから毎年幸せな1年が来ないのだろう。
あー。どうしたら幸せな1年が手に入るのか。
あー。どうして良いお年をなんて人の幸せを願うことができるのか。
私には分からない。
いや、分かろうとしないだけなのかもしれない。
23日目
夏休み、私はある1本の映画を見た。
その映画はただただ男が生と死の淵を彷徨うだけの面白くも、怖くもないつまらないものだった。
でも、私はその映画から目が離せなかった。
何故か引き込まれてしまう。深く考えてしまうような映画だった。
スクリーンを前にして座っているのは私を除いて1人か2人だろう。
何故こんなにも引き込まれてしまうのか、私以外の人もこんな気持ちになっているのか、気になる。
2時間程でその映画は終わった。
9月1日、夜の10時。
邪魔者はいない、邪魔してくれる人もいない。
気づいてくれる人も、見てくれる人もいない。
私は1人、廃墟のビルの屋上に向かった。
あの映画から抜け出せなかったのは、私の意思かもしれない。
私がこれからどうなろうがすべてどうでもいい。
22日目
「お母さん、どうすればいいの?」
久しぶりに聞いた母の声はそれだった。
学校でいじめられてから家にひきこもって1年が経とうとしている。
学校に行けるはずもなく、一日中部屋にひきこもっている。
部屋の外に出る時はお風呂に行く時と、トイレに行く時、それ以外は部屋で過ごしている。
最初は心配してくれていた母も次第に私を遠ざけるようになった。
母は、私のために悩みを聞いて、理解してくれて、そばにいてくれる。そう思っていた。
でも、そんな期待はすぐに裏切られた。
「いじめられる方にも原因があるのよ。あなたが何かしたんじゃない?」
私が相談した時、母の口から出た一言目はこれだった。
あー。もう期待するのはやめよう。誰かに相談するのもやめよう。
私は初めて人間不信になった。
もう、誰を信じればいいのか、この先、誰を信じられるのか。
もう私には分からない。
21日目
声が枯れるまで、君の名前を叫んだ。
もう聞こえることも届くことも無い君に向かって、僕は何度も何度も名前を呼んだ。
生と死の淵にたっている君は、僕が何度名前を呼んでも目を覚まさない。
毎日毎日声が枯れるまで叫んで、泣いて、叫んで、泣いてを繰り返している。
その一週間後目を覚ますことも無く、僕の声に答えることもなく君は死んだ。あっさり死んでしまった。
棺の中にいる君には、もう届くことは無い。
その三日後には灰になって消えてしまう。そうなれば一生僕の声も届くことはないのだろうか。
僕は君のことを思い出す度、何度も何度も名前を叫ぶ。
たとえ声が枯れようとも、声が出なくなろうとも、僕は君の名前を呼び続ける。