酸素不足

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5/26/2024, 1:12:40 AM

『降り止まない雨』


ザアザアと降る雨を、恨めしく見つめる。
ちゃんと予報を確認すれば良かった。
それか、折りたたみ傘をカバンに入れておけば良かった。
ゲリラ豪雨だから、そのうち止むだろうと、壁に寄りかかる。

「傘、無いの?」

適当に暇をつぶそうと、スマホのゲームアプリを開いたところで、声をかけられた。
聞き間違えるはずもない、彼女の優しい声だ。

「あー、うん」
「そっか、私も」

照れくさそうに笑う彼女の周りには、花が咲いているようだ。

「すぐに止むと良いね」
「あと五分くらいで止むっぽい」

すぐさまスマホのゲームアプリを閉じ、雨雲レーダーの予測を見る。

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと待ってようかな」
「俺もそうする」

雨が止むまで、彼女と一緒だ。
どうせなら、もう少し降ってくれと願う。

「教育係、大変そうだな」
「いろんなことに気を遣うから大変だけど、結構楽しいよ」
「そっか。まあ、あんまり無理しないで頑張って」
「ふふ、ありがとう」

強く降る雨を見ながら、彼女と他愛もない話をする。
この穏やかな時間に、このままずっと、雨が降り止まなければ良いのにと思った。

5/24/2024, 11:56:28 AM

『あの頃の私へ』


ねえ、今、幸せ?
もちろん幸せよね。
大好きな人が傍にいるのだから。

でもね、その幸せは、長く続かないの。
あの人は、遠くに行ってしまうの。

それが、私の心を壊してしまった。
大好きで大好きでたまらない彼女を、悲しませてしまうの。
どんなに後悔しても、彼女が私に笑いかけることは、無くなってしまうわ。

だから、今のその幸せを続けたいのなら、彼女を逃がさないことよ。
ずっと、自分の手の中に置いておくの。
何処へも行けないように手足を繋いで、誰のことも視界に入れないように光を奪って。
そして、私無しじゃ生きていけなくするの。

そうしたら、未来永劫、彼女とずっと幸せでいられるわ。

5/23/2024, 1:32:13 PM

『逃れられない』


あなたは私のもので、私はあなたのものでしょう?
そこに、戸惑いも疑問もいらないの。
その事実から、目を背けないで。

私から、逃げられると思わないでね?

5/22/2024, 12:11:10 PM

『また明日』


「はあ〜」

昇降口には、オレンジ色の光が差している。
生徒がそれぞれの帰路に着いて行く様子を、大きなため息を吐きながら、ぼんやりと見つめる。

今日も、何も出来なかった。
チャンスはいくらでもあったのに。
一言話しかける勇気が、いつまで経っても出てこない。
こんな調子じゃ、明日も何も出来ないだろうな。

「あれ、帰らないの?」
「っ!」

また一つ、大きなため息を吐きそうになった時、声をかけられた。
あれほど話したいと思っていた想い人が、緩やかに笑いながら、私の返答を待っている。

「誰か待ってるとか?」
「あ、いや……」

話しかけるイメージトレーニングはたくさんしたのに、話しかけられるのは予想外で、しどろもどろになってしまう。

「暗くなるの早いから、気をつけてね」
「う、うん」
「じゃ」

さらりと手を振って、自分の靴箱に向かう彼を、名残惜しく目で追う。

今、絶好のチャンスでしょ!

心の中で、もう一人の自分が、喝を入れる。
ぎゅうっと拳を握り締めて、息を長く吐く。

「あ、あの!」
「ん?」

思ったよりも大きな声は出なかったけれど、彼はちゃんとこっちを見てくれた。

「また、明日ね」

恥ずかしさから、少し俯いてしまった。
心臓がドクドクして、口から飛び出してきそうだ。

「うん、また明日」

オレンジ色の光を浴びながら、彼はにっこりと笑った。
嬉しさで、踊り出してしまいそうなのを堪えて、小さく手を振る。
すると、彼も手を振り返してくれた。

去って行く彼の背中を見送りながら、喜びを噛み締める。


明日は「おはよう」を言おうと決めた。

5/21/2024, 2:02:10 PM

『透明』


「透明になる花って知ってる?」
「何それ。知らない」
「サンカヨウって言うんだよ。普段は白いんだけど、雨に濡れると透明になるの。とっても綺麗なんだ」
「へー、そうなんだ」
「もうちょっと興味持ってよぉー」


そんなことを話したのは、いつだったか。
きみが言っていた透明な花、見つけたよ。
花言葉は、「自由奔放」とか「幸せ」なんだってね。
でも、一番きみに合う花言葉は、「清楚」かな。

線香の煙が、ふわっと不自然に動いた。
きみが笑ってくれたような気がした。

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