酸素不足

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5/12/2024, 11:06:57 AM

『子供のままで』


あの時の約束を、きみは覚えているだろうか。
小さな手を絡めて、指切りをした。あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

あれから、随分と時間が経ってしまったけれど、ようやくきみとの約束を守れそうだ。

子供の頃の口約束だと、笑わないでほしい。
僕は、きみのとのその約束を守るためだけに、生きてきたのだから。

きっと、子供のままでは叶えられなかった約束。
大人になってやっと叶えられる。

待っていてね。約束の時は、もう近いから――。

5/11/2024, 1:18:25 PM

『愛を叫ぶ。』


俺は今、間違いなく、人生で一番緊張している。
口から心臓が飛び出しそうだ。手汗も止まらない。

人生で初めて買った花束を、崩さないように慎重に抱き抱え、ゆっくりと深呼吸する。
それから、ジャケットの右ポケットにそっと触れ、四角い箱があるのを確認する。

頭の中で、何度も何度も繰り返した言葉。
上手く言えないかもしれないが、ありったけの愛を叫ぼう。
あいつは、俺の大好きな笑顔で、イエスと答えてくれるだろうか。
もしかしたら、泣かせてしまうかもしれない。

もう一度、大きく息を吸って、緊張と共に吐き出してから、力強く玄関のドアを開けた。

5/10/2024, 12:05:03 PM

『モンシロチョウ』


怖い、怖い。
何故、みんな私を追いかけてくるの。
私は自由に生きたいだけなのに。
私がどんなに拒んでも、諦めてはくれない。

こんな体に生まれてきたくなかった。
こんな場所に生まれてきたくなかった。

どんなに出自を恨んでも、どんなにこの身を呪っても、どうしようもない。
私はどう頑張っても、この運命から逃れられない――。



「あ、モンシロチョウ」
「本当だ。五匹もいる」
「ふふっ、可愛い。仲良く飛んでる」
「春だなあ」

5/9/2024, 1:56:23 PM

『忘れられない、いつまでも。』


コツコツと革靴の音を響かせ、ゆっくりと歩く一人の男。
男は、悲しそうな、けれど、どこか満足そうな表情をしていた。

そんな男の腕の中には、一人の生首が抱かれていた。
それを、とても大事そうに抱える男は、異常な人間に見えるに違いない。
しかし、他人からどう見られるかなど、男にはどうでも良かった。
男は、どうしても、その生首を手に入れたかったのだった。
いや、生首を手に入れたかったのではない。彼という存在を手に入れたかったのだ。
どうしても手に入らない場所へ行ってしまう彼を、どうしても自分のものにしたかったのだ。

「お前が言ってくれたことが、忘れられないんだ。いつまで経っても、忘れられないんだよ」

男は、生首に頬擦りしながら、苦しそうに呟いた。
一筋の涙が流れたことに、男は気付かなかった。


そうして男は、もう動くことのない唇に、ゆっくりと自分の唇を重ねた。

5/8/2024, 11:03:53 AM

『一年後』


ちょうど一年前だった。
きみがこの世から居なくなったのは。

すぐに追いかけようとしたけど、できなかった。
だって、きみが「幸せになって」って最期に言ったから。

だから、幸せを探して、探して、探して――。

結局、幸せは見つからなかったよ。
だってそうじゃないか。隣にきみが居ないのだから。
いつ、どこで、何をしていても、きみが生きていたらと考えてしまう。

ごめんね。僕は幸せにはなれなかった。
いや、きみが居ないと、僕は幸せになれないんだよ。

だから、もう、きみの所へ逝っても良いよね。
きみは、泣きながら「バカ」って言うんだろうな。
でも、それでいいんだ。それがいいんだ。


とある貴族の病弱な令嬢が、この世を去ってから、ちょうど一年後。
甲斐甲斐しく彼女の世話をしていた執事が、この世を去った。

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