夏の始まりおばあちゃんの家に行くと風鈴が出ていた、風に揺らされ嫌と思うほど綺麗に響く音が私の耳に突き刺さる。
いつ聞いても癒されてしまう。
私は夏が嫌いだ暑くて虫も多いし、いいことなんてない。
そんな夏だけど綺麗なものがたくさんあるから好き。
矛盾していることなんて知っているけどみんなだいたいそうだ。
なんて、小説の主人公とかでしか言わない言葉を頭の中で考えては消しての繰り返しで扇風機の前で暇を潰す。
高校生にもなって彼氏もいなければ、わざわざ暇を潰す友人もいない。
「あーつまんない」
そんなことを言ってたらおばあちゃんから呼ばれた。
畑の手伝いらしい。
まぁ暇だし、と重い足取りで畑に向かう外は予想通り暑く入道雲がくっきりと青くすんだ空に広がっている。
畑仕事が終わりお婆ちゃんからお小遣いをもらった。
散歩がてら駄菓子屋でもいこーなんて思いながら500円玉にぎりしめ自転車にまたがり坂を下る。
暑い空気も自転車だと涼しく自分を押し出してくれてるみたい。
ふと横を見ると澄んだ空と同じ色の海が果てしなく広がっている。
「綺麗」
自然と自分の口から出た言葉それすらも気づかない。
この景色は私の嫌いで好きな夏でしか見れない。
「“夏の気配がする”」
【まだ見ぬ世界】
5年一組山田太郎
そんな世界なんてあるのだろうか
僕は夏休みの宿題の作文を前に頭を抱える。
先生も酷いものだ、まだ見ぬ世界というのなら誰もまだ見たことないじゃないか。
そんなことを考えていても時間は進んでいく、とまってくれなんかしない。
「あーまだ見ぬ世界って何ー」
集中力が切れたのだろう僕の口から自然と出た言葉
まだ見ぬ世界という言葉だけが頭に響く。
母さんや父さんに聞いたってわからないや簡単だろと言って話を聞いてもらえない。まぁ僕も当てにしてないけど、
鉛筆を持っていた手を離し外に行く準備をする、仕方ない探すかと思い玄関のドアを開ける。
適当に歩き考える、
まだ見ぬ世界=知らない世界ってこと?
そんなことぼーっと考えいつもの公園に行く公園は息抜きにちょうどいい、辺りを見渡すと1人ブランコに乗っている女の子がいる。
僕より下だということはわかる。
するとこっちに走ってきて僕の目を見ていうんだ。
“あそぼ”
こんなこと言われるのは初めてだし、僕は兄弟がいないから少し嬉しかった。
いいよって言って女の子について行く。
ブランコを押してあげたり鬼ごっこをしたり色々遊んだ。
久しぶりにこんなに遊んだ友達となんか家でしか遊ばないし、
ましてや自分より下の子と遊ぶことが初めてだった。
空がオレンジ色に焼けた夕方。
すると女の子のお母さんだろうか、女の子に手招きをし女の子は笑顔で走っていった。こちらに頭を下げ女の子は僕に手を振りどこかにいってしまった。
心なしか空がいつもより綺麗に見えた。夕焼けもまた綺麗に見えた。あの子が気づかせてくれた。
僕の作文はもう決まりだ。
僕は毎日同級生の君の声を聞きに行く、君のいる病院まで、
あの子は別にどこか悪いわけでわなくただ少し風を拗らせただけだそうだ。噂だとそうなる、最初は病院に行って君に聞いた。彼女はいつも通り変わりなく笑顔で僕の手を握る、毎回話はそらされる。でも僕はこのときが一番生きている温もりを感じる。それが毎日の日常だ。
そんなある日、ただいつも通り帰って病院に行く準備をしてたんだ、それだけだった。
病院行きのバスの中で揺られながら外の景色を見る。
外を歩き景色を見たいと言っていた彼女にとって僕は憧れかもしれない、でもそんな憧れを当たり前にできてしまう僕は何が良いのかわからない。
病院につき受付にいつも通りの言葉を言って、いつも通りの階段を登り、いつも通り病室の前に手をかける。
ドアを開けるといつも通り笑顔の君がいたはずだった。
だが、僕の目の前にいるのは虚な目をした苦しそうな表情でこちらを見ていた君だった。
咄嗟に近寄った、もうそこからは何を喋ったかわからない。
ことの重大さが僕の小さな頭には入らなかった。
ナースコールを鳴らそうとする僕の手を君が力ない手で抑える。2人とも諦めていたんだよきっと。静まり返る病室で君が口を開く。
“ごめんね”
きっとそれが最後の言葉だったのだろう、急なことで馬鹿な僕が理解するには十分な時間が必要だった。
謝らせてしまったこと伝えたいことが伝えられなかったこと
たくさんの後悔が僕の頭を高速で駆け巡る。
感情が追いついたのだろう。視界が涙でぼやける。
笑顔で手を握ってくれた君に対して僕は涙を流して縋り付く
なんて情けないんだ自分でもそう思った。
なんてことない日常に君がいたんだ特別だったんだ
僕は本当にずるい、伝えたい言葉も伝えられずましてや今言おうとしてる。
君だけに送るきっと君も僕にとっても最初で最後の言葉。
“愛してるよ”