いぶ

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12/2/2025, 11:50:16 AM

贈り物の中身


とある日、ひとつの贈り物が届いた。
送り主は過去の私。
中身は夢を抱えた少女からの小さな願いだった。


かつて私が小学生だった時のこと、学校ではタイムカプセルが流行っていた。
今自分が好きなもの、大切なものを手紙と一緒に箱に入れて自分の家の庭や近くの公園に埋め、数年後に掘り起こすというもの。
皆キラキラなシールやプリクラ、点数の良かったテストなどを箱に入れ埋めていたらしい。

例に漏れず私もタイムカプセルを埋めていた。
だが気が変わりやすい私は1日も立たずにタイムカプセルを掘り起こしていた。
中身も手紙の内容を全て覚えているので大変つまらないと思っていた。

とある日、家のポストに郵便局からのひとつのチラシが入っていた。

「タイムカプセル郵便を送ってみませんか?」

タイムカプセル郵便とは、未来の自分や未来の自分の子供、亡くなる前の最後の言葉などを手紙や荷物にし、数十年後を送ることができるサービスだという。
これなら郵便局が預かってくれるから自分で開けてしまうこともないし、確実に未来に届く、そう考えた私はタイムカプセル郵便を送ることにした。

お母さんに用意してもらったレターセットで手紙を書き始めた。
今自分が何にハマっているか、昨日買ってもらった漫画の話、来週の運動会、沢山の内容を思いついたがどれもピンと来ず、なかなか筆が進まなかった。

その時、ふと自分の学習机の上にあった髪が目に入る。

『診断書』

私の名前が書いた診断書だった。
私は生まれつき体が強くなく、病院に通うことが多かった。
だから学校にも通えず、毎日1人だった。

週に一度、担任の先生が送ってくれる手紙だけが唯一私と学校を繋いでいてくれた。
その手紙には学校で何が流行っているか、どんな授業をしているか、明日の給食の話などが細かく書いていた。
すごく楽しそうで、すごく、羨ましかった。

先週も先生は手紙を送ってくれた。
今やっている算数の計算の話、運動会の練習の話、そして、タイムカプセルの話。

『皆ね、将来これになりたい!とか未来の世界は車が飛んでると思う!とか書いてるんだよ。〇〇さんは、将来何になりたい?』

手紙にそう書いてあった。
将来のことなんて考えたこと無かった。
将来、私が生きていると思えず、不安だったから。
未来のことを考えたくなかったから。

もし病気が悪化していたら、もし余命宣告をされたら、タイムカプセルを掘りおこすはずだった数年後、私はいないかもしれない。
そう考えるだけで落ち着かずすぐにタイムカプセルを掘り起こしてしまっていた。

そんな時に来たひとつのチラシ、それがタイムカプセル郵便のチラシだった。
これなら、もし私がいなくても家族が受けとってくれる。
未来に、私の思いが届く。
そう思ったから、郵便を送ろうと思えた。

もう一度、先生が送ってくれた手紙を読み返す。
もし、将来私が生きているのなら、何になりたいのか、何をしたいのか。

思いついた。

体が弱くて外に出れなく、世の中のことを何も知らない私が唯一なりたいと思えたもの。

レターセットに目を向ける。
もう一度ペンを手に取り手紙を書き始める。

未来の私へ。












とある日の学校帰り。

タイムカプセル郵便の事などすっかり忘れていた10年後の私宛に小さな手紙が届いた。

自分宛の手紙なんて書いたっけ?そう思いながら手紙を開く。そこには小さな幸せを求める少女の言葉が綴られていた。

『将来の夢は元気に学校に通うこと、そしていっぱい友達を作ること!!』

今の私にとっての日常は昔の私にとって夢みたいなことで、ずっとずっと願っていたことなんだと思い出す。


ねえ、過去の私。
夢、かなったよ。学校に通えてるよ。
友達もいっぱいではないけど、何年後も一緒にいたいと思える友達が出来たよ。
病院も、完治した訳では無いけど体調安定してるよ。
過去の私が治療に専念してくれたおかげだね。

今はきっと何も手につかなくて、ネガティブになっちゃうよね、でも安心して。

未来の私、めちゃくちゃ幸せだよ。
諦めず生きていてくれて、ありがとう。

9/5/2024, 7:53:35 PM

お題 貝殻


不思議な女の子


今年も1人で海に来る。
海の写真を撮るために。

砂浜を歩いていると、可憐な白いワンピースの女の子が黙々と貝殻を見つめているようだった。
素敵な子…と思いながら通り過ぎようとしたその時、

『お姉さん!この貝殻綺麗じゃない!?』

女の子の明るく可愛い声が響き渡った。
私は戸惑いながらも返事をする。

「そうね。とっても素敵な貝殻。」

女の子が持っている貝殻は真っ白で、形も一切崩れていない、珍しいほど綺麗だった。

いや、女の子が持っているから綺麗に見えたのかもしれない。
そんな事を考えている時、

『あ!それカメラ?お姉さん写真撮ってるの?』

と聞かれる。海に来た本来の目的を忘れる所だった。

「そうなの。写真家で日本中を旅しているんだ。」

と答える。女の子はまるで向日葵のような明るい顔をして

『なら!私を撮って!』

と元気を話す。
話を聞くと、女の子が着ているワンピースはお誕生日に家族に買って貰ったものらしく、初めて着た記念に撮って欲しいとの事。

写真家としてこんな素敵なご依頼、断る訳には行かない。
もちろん返事はOK。

「それじゃあ撮るよ〜。」

と合図をすると、貝殻を持った女の子はひらっ…とスカートを広げ微笑む。

その姿はまさに女神だった。

あまりの美しさに言葉を失っていると、女の子の明るい声が聞こえてくる。

『お姉さん!ありがとう! その写真、お姉さんにあげるね!ついでにこの貝殻も!!』

と明るく話す。
もちろん私は困惑する。

「え…?いいの?家族に見せた方喜ぶんじゃない?」

そう女の子に問う。
だが女の子から帰ってきた返答はまたも私を混乱させた。

『うんっ!あのね、私お姉さんに一目惚れした!』
『だから、写真撮ってもらったの。私の事忘れないように、この写真と貝殻一緒に持ってて!』

と答える。
頭にハテナしか浮かばない。
この女の子が私に一目惚れ?私に忘れられないために写真を??
そう私が悩んでいると、また女の子の声が聞こえてくる。

『そろそろ時間、行かなきゃ!』
『ありがとう。素敵なお姉さん。』

と言い女の子は走って行く。

今の時間はなんだったのだろう…
10分にも満たない時間だったのに、あの子の虜にされたようだ。

こんな不思議な出会いがあるから写真家は辞められない。
素敵な写真をポケットにしまい、海や砂浜の写真撮り、海を後にする。



ありがとう。写真撮らせてくれて。
そして、あの子と出会わせてくれて。


これは名も知らない少女に恋した、私の話。

6/25/2024, 10:05:09 AM

お題 1年後

卒業式

3月上旬、私達は高校を卒業した。
皆涙を流しているのに顔は笑っている、そんな不思議な時間を過ごした。

卒業式が終わり、自由時間となった。
自由時間になった瞬間に友達が

「ねえ、私1年後何してると思う?」

と聞いてきた。

『え〜…大学行かないなら普通に仕事してんじゃない?内定貰ったんでしょ?』

「…私社会に出れんのかな、」

『あんたなら大丈夫だと思うけどね。』

そんな会話をする。
確かに私達は1年後何をしているだろう。
2人とも内定は貰っているものの、もしかしたらそこを辞めているかもしれない。
もしかしたら結婚しているかもしれない。
もしかしたら、もう2人で一緒に居ないかもしれない。
そう考えると少し寂しい気持ちになってくる。

『…ねえ。』

「ん?」

『就職してもさ、月1ぐらいでは会おうね。』

「え?当たり前じゃん!私あんたに会社の愚痴とかめっちゃ喋る予定だからね!!」

…ちょっと心配した私が馬鹿だったかもしれない。
こいつは離れるなんて考えがまずなかったらしい。
ちょっと嬉しいけど。

<皆外で写真とろー!>

クラスメイトの声が響く。
このクラスでいれるのも今日が最後、沢山写真を撮って帰ろうと思う。
そう思いながら廊下を歩く。
そこに飾られていたのは

【1年後の私へ。】
高校2年生の時に書いた作文だった。
その作文には彼氏はできているかだの、テストはどうだだの書かれていたが、最後の文に

【いつまでも2人でいてください。】

そう書かれていた。
1年前の私。安心してね、
何回喧嘩しても、何回泣いても、きっと離れることは無いよ。

1年後も、2年後も、10年後もね。

5/22/2024, 3:54:38 AM

お題 透明

親友

私の親友は可愛くて、優しくて、とても綺麗な人だった。

誰に対しても優しくて皆に好かれる存在で私とは真反対の人。

こんなだめだめな私といつも居てくれて、笑ってくれて、時には泣いてくれた、そんな親友が大好きだった。

でも、そんな親友はもうどこにもいない。
病気が悪化して今年に入ったすぐ、天に昇った。

それから私は何もやる気が起きず、ずっと部屋に引きこもっている。

でも、なぜか今日はやる気があって珍しく部屋の掃除をしている。

机の横についている棚を久しぶりに開けてみた。
すると1つの手紙が目に入ってきた。

『○○ちゃんへ。』

大好きな親友の字だった。
そういえばこれは私が居なくなったら読んでね、と言われていた手紙だ。
ショックで手紙の事をすっかり忘れていた。

居なくなって時間が経ったけど今読むね。

手紙を開けるとそこには私と親友の思い出が沢山書かれていた。
一緒に部活をした事、一緒に先生に怒られた事、一緒に放課後遊びに行った事。
便箋三枚分、びっしり書かれていた。

そして最後の四枚目、何が書かれているだろう、とわくわくしながら読む。

そこには私への応援メッセージが書いてあった。

『私が透明になって○○ちゃんの目には映らなくなっても、私はずっとずっと○○ちゃんの親友で味方だよ。』

そう書かれていた。
私の親友は今までずっと、私の近くて応援していてくれたのだ。

透明になってしまった今でも、私の隣で見守ってくれていたのだ。




それから私は学校にも通い、部活にも顔を出し、
いつもの日常に戻った。
全ては親友のおかげ。


「ありがとう。」
『こちらこそ。』

5/7/2024, 1:29:28 PM

お題 初恋の日

チョコレート

2月14日、バレンタイン。
学校中甘い匂いがして、皆そわそわして、いつもと様子が少し違う。

まあ、私もそわそわしてるから人の事言えないんだけど。

友達とチョコを交換して、クラスの男子に義理チョコをあげて…あと渡す人はあの人だけ。
あと一人なのに…その人に渡すのが難しい。

なぜなら好きな人だから。

私の初恋の人。かっこよくて、優しくて…ありきたりな褒め言葉かもしれないけど、本当に私はあの人に恋をした。

放課後、王道の体育館裏に呼び出した。
緊張して、震えて、上手く喋れるかも分からない。
でも今日、いや、今。
私は初恋の人に告白する。


『付き合ってください…!』

『こちらこそ。』


私の初恋が叶った日だった。


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