いぶ

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贈り物の中身


とある日、ひとつの贈り物が届いた。
送り主は過去の私。
中身は夢を抱えた少女からの小さな願いだった。


かつて私が小学生だった時のこと、学校ではタイムカプセルが流行っていた。
今自分が好きなもの、大切なものを手紙と一緒に箱に入れて自分の家の庭や近くの公園に埋め、数年後に掘り起こすというもの。
皆キラキラなシールやプリクラ、点数の良かったテストなどを箱に入れ埋めていたらしい。

例に漏れず私もタイムカプセルを埋めていた。
だが気が変わりやすい私は1日も立たずにタイムカプセルを掘り起こしていた。
中身も手紙の内容を全て覚えているので大変つまらないと思っていた。

とある日、家のポストに郵便局からのひとつのチラシが入っていた。

「タイムカプセル郵便を送ってみませんか?」

タイムカプセル郵便とは、未来の自分や未来の自分の子供、亡くなる前の最後の言葉などを手紙や荷物にし、数十年後を送ることができるサービスだという。
これなら郵便局が預かってくれるから自分で開けてしまうこともないし、確実に未来に届く、そう考えた私はタイムカプセル郵便を送ることにした。

お母さんに用意してもらったレターセットで手紙を書き始めた。
今自分が何にハマっているか、昨日買ってもらった漫画の話、来週の運動会、沢山の内容を思いついたがどれもピンと来ず、なかなか筆が進まなかった。

その時、ふと自分の学習机の上にあった髪が目に入る。

『診断書』

私の名前が書いた診断書だった。
私は生まれつき体が強くなく、病院に通うことが多かった。
だから学校にも通えず、毎日1人だった。

週に一度、担任の先生が送ってくれる手紙だけが唯一私と学校を繋いでいてくれた。
その手紙には学校で何が流行っているか、どんな授業をしているか、明日の給食の話などが細かく書いていた。
すごく楽しそうで、すごく、羨ましかった。

先週も先生は手紙を送ってくれた。
今やっている算数の計算の話、運動会の練習の話、そして、タイムカプセルの話。

『皆ね、将来これになりたい!とか未来の世界は車が飛んでると思う!とか書いてるんだよ。〇〇さんは、将来何になりたい?』

手紙にそう書いてあった。
将来のことなんて考えたこと無かった。
将来、私が生きていると思えず、不安だったから。
未来のことを考えたくなかったから。

もし病気が悪化していたら、もし余命宣告をされたら、タイムカプセルを掘りおこすはずだった数年後、私はいないかもしれない。
そう考えるだけで落ち着かずすぐにタイムカプセルを掘り起こしてしまっていた。

そんな時に来たひとつのチラシ、それがタイムカプセル郵便のチラシだった。
これなら、もし私がいなくても家族が受けとってくれる。
未来に、私の思いが届く。
そう思ったから、郵便を送ろうと思えた。

もう一度、先生が送ってくれた手紙を読み返す。
もし、将来私が生きているのなら、何になりたいのか、何をしたいのか。

思いついた。

体が弱くて外に出れなく、世の中のことを何も知らない私が唯一なりたいと思えたもの。

レターセットに目を向ける。
もう一度ペンを手に取り手紙を書き始める。

未来の私へ。












とある日の学校帰り。

タイムカプセル郵便の事などすっかり忘れていた10年後の私宛に小さな手紙が届いた。

自分宛の手紙なんて書いたっけ?そう思いながら手紙を開く。そこには小さな幸せを求める少女の言葉が綴られていた。

『将来の夢は元気に学校に通うこと、そしていっぱい友達を作ること!!』

今の私にとっての日常は昔の私にとって夢みたいなことで、ずっとずっと願っていたことなんだと思い出す。


ねえ、過去の私。
夢、かなったよ。学校に通えてるよ。
友達もいっぱいではないけど、何年後も一緒にいたいと思える友達が出来たよ。
病院も、完治した訳では無いけど体調安定してるよ。
過去の私が治療に専念してくれたおかげだね。

今はきっと何も手につかなくて、ネガティブになっちゃうよね、でも安心して。

未来の私、めちゃくちゃ幸せだよ。
諦めず生きていてくれて、ありがとう。

12/2/2025, 11:50:16 AM