お題 貝殻
不思議な女の子
今年も1人で海に来る。
海の写真を撮るために。
砂浜を歩いていると、可憐な白いワンピースの女の子が黙々と貝殻を見つめているようだった。
素敵な子…と思いながら通り過ぎようとしたその時、
『お姉さん!この貝殻綺麗じゃない!?』
女の子の明るく可愛い声が響き渡った。
私は戸惑いながらも返事をする。
「そうね。とっても素敵な貝殻。」
女の子が持っている貝殻は真っ白で、形も一切崩れていない、珍しいほど綺麗だった。
いや、女の子が持っているから綺麗に見えたのかもしれない。
そんな事を考えている時、
『あ!それカメラ?お姉さん写真撮ってるの?』
と聞かれる。海に来た本来の目的を忘れる所だった。
「そうなの。写真家で日本中を旅しているんだ。」
と答える。女の子はまるで向日葵のような明るい顔をして
『なら!私を撮って!』
と元気を話す。
話を聞くと、女の子が着ているワンピースはお誕生日に家族に買って貰ったものらしく、初めて着た記念に撮って欲しいとの事。
写真家としてこんな素敵なご依頼、断る訳には行かない。
もちろん返事はOK。
「それじゃあ撮るよ〜。」
と合図をすると、貝殻を持った女の子はひらっ…とスカートを広げ微笑む。
その姿はまさに女神だった。
あまりの美しさに言葉を失っていると、女の子の明るい声が聞こえてくる。
『お姉さん!ありがとう! その写真、お姉さんにあげるね!ついでにこの貝殻も!!』
と明るく話す。
もちろん私は困惑する。
「え…?いいの?家族に見せた方喜ぶんじゃない?」
そう女の子に問う。
だが女の子から帰ってきた返答はまたも私を混乱させた。
『うんっ!あのね、私お姉さんに一目惚れした!』
『だから、写真撮ってもらったの。私の事忘れないように、この写真と貝殻一緒に持ってて!』
と答える。
頭にハテナしか浮かばない。
この女の子が私に一目惚れ?私に忘れられないために写真を??
そう私が悩んでいると、また女の子の声が聞こえてくる。
『そろそろ時間、行かなきゃ!』
『ありがとう。素敵なお姉さん。』
と言い女の子は走って行く。
今の時間はなんだったのだろう…
10分にも満たない時間だったのに、あの子の虜にされたようだ。
こんな不思議な出会いがあるから写真家は辞められない。
素敵な写真をポケットにしまい、海や砂浜の写真撮り、海を後にする。
ありがとう。写真撮らせてくれて。
そして、あの子と出会わせてくれて。
これは名も知らない少女に恋した、私の話。
9/5/2024, 7:53:35 PM