今日は快晴だ。雲ひとつない。
本来であれば、明るい気持ちになれるであろうが、
あいにく今日はこの快晴が憎い。
天候が悪ければ、君が海外に飛び立つのを少しでも延ばせられるのに。
こんなことを思うなんて最低なのは僕にもわかってる。
君は希望を持って前に進もうとしている。その邪魔なんて到底できない。
僕も前に進まなければならない。
だけど、ここまで気の許せる友達は、僕には君しかいなかったんだ。
「帰国する時連絡するわ。お前も頑張れよ!」
とだけ言い残して乗り場に向かっていってしまった。
「待ってる。留学頑張れよ。」
これしか言えなかった。この言葉で精一杯だった。一気に孤独を感じ始めた。
僕はちゃんと笑えていただろうか。
こんなにも寂しがっていることがバレてないといいけど。
飛行機が飛び立つまで、僕は棒立ちで見ていることしかできなかった。
飛行機がゆっくりと動き出す。しばらく走ったあと、車輪が滑走路から離れた。
今日は快晴だ。飛行機が見えなくなるまでここにいよう。
そう思ったのに、君を乗せた飛行機はすぐに遠くの空へ消えていった。
「なんか、あいつみたいだな。」と、ふと思った。
次はいつ帰ってくるのだろうか。
君のことだから、帰ってきてもまたどこかに行ってしまうかもな。
まぁでも、僕はどこにも行かないから、君が帰ってくるのをのんびり待ってるよ。
俺は最初、お前のことを弱いと思っていた。
毎日気が強い奴らにいじめられているくせに、ずっとへらへら笑ってる。
俺が止めに入っても、
「僕は大丈夫だから!」
なんて言ってる。大丈夫なわけないだろ。抵抗もできないくせに。
だけど、他の奴らがいじめられてると、誰よりも先に助けに行くよな。
自分がどれだけ弱かろうとケガしてようと関係なく、俺よりも先に飛び出していく。
そんなことしてたら、お前すぐ死ぬぞ。
もっと自分のこと大事にしろよ、と何度言ったことか。
それでもお前は助けにいく。自分はいいけど、他の人がいじめられてるのは許せないんだと。
もし俺がお前の立場なら、誰かに助けは求めるが、自分が助けに行こうとは思えないかもしれん。
立ち向かえる気がしないはずだ。
だから俺にはわかる。
お前は誰よりも強い。そして誰よりも優しい。
そんなお前が、今は愛する人を見つけて幸せそうなのを見れて、俺は嬉しいよ。
こうして結婚式を見れているのが、本当に嬉しい。
苦労してきたお前が、誰よりも幸せになることを願ってるよ。ずっとな。
よし、俺もそろそろ結婚するか。
日が沈む。
沈む夕日に照らされて、看板やミラーが輝く。
人影は、より濃くなる。
そして、夜に溶けていく。
赤く染まった住宅街も、だんだんと黒に包まれる。
僕の心も、夕日のように燃え上がり、
そして、夕日とともに沈んでいった。
「告白、ダメだったな…。」
日はまだ沈みきっていない。
早く夜になってくれ。
毎朝電車でドアに寄りかかっている女の子。
多分僕と同い年ぐらいの高校生なんだけど、同い年とは思えないくらい落ち着きがあって、セーラー服がよく合う綺麗な人だった。
夏休みが終わってから、その人を見かけるようになった。
僕の定位置もドアのそばで、毎朝向かい合う形で立っている。
いつもその状態で、それぞれ本を読んだりスマホを見たりしている。
僕はその時間が1番好きだった。
一度だけ、その人と目があったことがある。
その人は、一重で少し大きな、優しい瞳をしていた。
僕はその瞬間を何故か忘れられなくて、その次の日からもう一度目が合うことを期待していた。
期待し始めてから数ヶ月たった頃、その人を電車で見かけることが少なくなってきた。
そして、電車のドアから春の暖かい風が入るようになった時、僕はその人が、僕よりも年上だったことを知った。
今ならわかる。その人が読んでいたのは参考書だったってこと。
カバーを外していたから分からなかったが、偶然同じものを買った時にやっと気づいた。
僕はまだ、あの人の瞳が忘れられない。
だけど今、僕の目の前には誰もいない。
あの人は、どこの大学に行ったんだろう。
つまらない学校が終わった。
今日も下を向きながら歩いていた。部活が遅くまであるので、いつも帰りは夜になる。
疲れていて憂鬱なのに、寒さで指も痛くなってきてさらに嫌になる。
「明日なんてもうこなくてもいいんだけどな…。」
毎日こんなことを思う。
学校にも馴染めず、友達もなかなかできず、部活も厳しい。
早くこの学校を辞めて転校したい、と思い続けてもう半年以上がたつ。
行動に移すのは想像以上に難しかった。
おまけにここはそこそこ栄えている場所で、人も車も多い。
朝は人混みやクラクションの音でさらに憂鬱になる。
夜もうるささはそこまで変わらない。
こんな場所から早く出ていきたかった。
でも大学生になるまであと2年はかかる。
気が遠くなりそうだった。
今日も見えない明日のことを思いながら歩いていた。
繰り返される、同じような日々。
でも今夜は少し違った。
ビルが並ぶ道を抜け、住宅街につながる橋を渡ろうしたが、今日はやけに人が多かった。
皆空にスマホを向けている。
私もつられて空を見上げた。
すると、見たことがないくらい輝く星空が広がっていた。
憂鬱だったことも忘れるくらい、綺麗だった。
それを見て、なんだか泣きそうになってしまった。
ずっと見ていると、吸い込まれそうな気もした。
ずっとここに居たいと思った。
この瞬間にずっと留まっていたいと思った。
でも、そうしてはいられない。
いつまでもここにいるわけにはいかないので、悔しいが歩みを始めることにした。
また少しだけ、憂鬱な気分に戻る。
だけど気持ちがすっと楽になった気がした。
それに、心の拠り所も見つけられた気がする。
「今度、夜空の写真集でも買ってみようかな。」
つまらない日常の中に、楽しみが1つだけできた。