毎朝電車でドアに寄りかかっている女の子。
多分僕と同い年ぐらいの高校生なんだけど、同い年とは思えないくらい落ち着きがあって、セーラー服がよく合う綺麗な人だった。
夏休みが終わってから、その人を見かけるようになった。
僕の定位置もドアのそばで、毎朝向かい合う形で立っている。
いつもその状態で、それぞれ本を読んだりスマホを見たりしている。
僕はその時間が1番好きだった。
一度だけ、その人と目があったことがある。
その人は、一重で少し大きな、優しい瞳をしていた。
僕はその瞬間を何故か忘れられなくて、その次の日からもう一度目が合うことを期待していた。
期待し始めてから数ヶ月たった頃、その人を電車で見かけることが少なくなってきた。
そして、電車のドアから春の暖かい風が入るようになった時、僕はその人が、僕よりも年上だったことを知った。
今ならわかる。その人が読んでいたのは参考書だったってこと。
カバーを外していたから分からなかったが、偶然同じものを買った時にやっと気づいた。
僕はまだ、あの人の瞳が忘れられない。
だけど今、僕の目の前には誰もいない。
あの人は、どこの大学に行ったんだろう。
4/6/2023, 1:37:19 PM