えい、と先程まで折っていた紙飛行機の教室の窓から飛ばす。窓から見える空はとても綺麗で澄み渡っている。
「今日もかっこいいな…」
はあ、と息を着く。私の席はちょうどグラウンドが見える場所にあるので放課後はそこで勉強をするという名目で先輩の部活動中の姿を目に焼き付けている。…先輩と喋ったことは一度もないけれど。
まあ叶うはずも無い恋心って奴だ。華の高校生だし、許されるだろう。片思いぐらい。
「あ、落ちた」
先程まで宙を漂っていた紙飛行機は突風に吹き飛ばされ、無惨にも地面に叩き落とされた。
私の恋心もこの紙飛行機のように届かないものなんだろうなと、私にしては珍しく文学的な思考に陥ってしまった。
【題:届かぬ想い】
拝啓 神様へ
神様。今はどんな気分ですか?私の気分は最悪です。神様なら少し前の時間に戻せたりしませんか?出来ることなら、私が産まれる前に。神様は一体何を思って私を作ったのでしょうか、暇潰し?だからこんなに適当なのでしょうか。それとも、落書きをするような気軽さで作ったのでしょうか。性格もひねくれていて、友人など誰もいません。作るのに失敗してしまったから紙をぐしゃぐしゃに丸めて捨てるように私の人生すらもぐしゃぐしゃにしてしまったのでしょうか。せめて、顔が良くないのなら聖人のような性格や、友人などができても良いのではないでしょうか。神様は一人で食べるご飯の味を知っていますか?神様は何も食べなくていいのかもしれませんが、私達はそうはいきません。みんなが集まって教室で食べている中、一人でお弁当を食べるのはとても恥ずかしくて恐ろしい。それがただただ憂鬱で学校に行きたくありません。そんな私の生き甲斐は何か分かりますか?まあ生き甲斐と言うほど性格はひねくれてませんので、なにか良い言葉に変換してください。で、その生き甲斐とやらは周りの人を見下すことです。性格が悪いと思いますか?私も思います。だが性格が良くて顔が可愛い人達に対抗出来るのが頭脳位で、レベルを落とした高校に入ったからか周りは馬鹿だらけです。お陰様で私はまだ生きるというコマンドを選択することが出来ます。
長々と書きましたが、神様はここまで読んでくれましたか?名前も知らぬ神様。居るかも分からぬ、人間の想像で出来た存在。自分の感情を手紙にして吐き出したおかげか、少しスッキリしました。まだ死ぬつもりはありませんが、どうか次の生は楽しめるようにしてください。
敬具
【題:神様へ】
やけに空が綺麗だな、そう思った。何時もは下を向いてばかりだから気づいていなかったのか、そう考えて少し惜しいことをしたなと思った。
そういえば中学の頃だったか、天気について学んだことがある。雲が空の九割を占めていたら曇り、八割から二割が晴れ、一割から零だったら快晴だそうだ。…こういう対した知識じゃないものほど記憶に定着しているのは何故だろうか。他の授業内容だなんて微塵も思い出せやしないのに。
はは、と声を零す。そういえば昔は天気に関心があったなと。夢という程でもないが、夢と言った方が響きは良いだろうか。ただ漠然とした未来像に当時は酔っていた。なれるわけもないのに、馬鹿馬鹿しい。
(でも、あの頃は幸せだった)
ただひたすらに走り続けて、それで良かった。だが、一度立ち止まってしまったら、もう進む気力が無くて、掻き集めた気力でさえ掌から砂時計のようにサラサラと零れ落ちて、そうしたらゴールが見えない未来に怖さを覚えて何時の間にかなんのために生きているのかわからなくなってしまった。
(昔の自分に言ってやりたいな、この景色を見るためだって)
夏の朝六時。雲一つない青空。そんな景色を見たら曇っていた心も今や快晴だ。
(ああ、キレイだな)
そして走馬灯はやけに長かった。最後にそんなことを思いながらグシャリという嫌な音で意識は途切れた。
【題:快晴】