猫がそれを踏む
宝石のような眼をギラギラ光らせて、、
ガラスのように透き通ったその花は割れはしなかった。
「繊細な花だから、守ってあげないとね。」いつかの昼下がり母は私にそう言った。
ならば守らなければと、母がそう言ったのだからと守りつづけていた。
その花は様々な色に変化した。透き通った赤、青、黄色、、でもよくどす黒い赤に変わった。
確か初めてその色を見たのは、母が死んだ日。
多分この花は、私の感情を反映してるんだと思った。
――――
母が死んでホントはうれしかった。
僕は母が嫌いだった。
仮面の下を花が僕の代わりに教えてくれる、それにひどく安心した。
母が死んでも、花の世話は欠かさず続けた。
天気のいい日、麦茶でも飲もうと冷蔵庫を開けて、
花から目を離していた時だった。
目を光らせた猫が植木鉢に突っ込んでいくのが見えた、きっと虫でもいたんだろう。
床に散らばる植木鉢の破片と無傷の花。
花を拾い上げる
ガラスのように透き通ったそれは、さらに透き通って
私[僕]をうつした。
私が私であることに苦痛を感じてしまった、
ねぇ、せんせ私の世界は案外[なんか死にたい]でなりたっているかもね
私の腕なんか切っても何も出ないけど
確かに自分の意志でここへ歩いてきたはずなのに
「帰り方が分からないんです。」
ふと顔を上げると霧に包まれた世界にいて、かすかに奥で信号らしき光が見える。
大きな音がしたかと思えば頭上で鯨が泳いでいる。
一体ここは何なのか、
[私はいったい何者なのだろうか]
[そもそもここに生まれてきた意味が存在するのか]
ここあたり一帯を反響させて鯨がしゃべりはじめる。
不思議と恐怖はなかった。
[どうして生きているのか]
鯨はただしゃべり続ける。
まるで淡々と仕事をこなすように、
[私のすすむべき道は]
より一層響いてめまいがする
だけど、多分だけどこれに答えなきゃ帰れない。
でもわからない。
「そんなのしるわけない」
[そんなのしるわけない]
霧の中で赤の光が青に変わった。
「地球最後の日ってなったらさ、ぜったいお前といたいな。」
なんて突然いうから
こたえられなかったよ
でもごめんね、私は海月だから
あなたのお願いも叶えられやしないんだ。
透明で何も考えられない私はただただ波にながされることしかできないから
みんなの言ったことを洋服のように身にまとって
その長い足を漂わせることしかできないから。
でもねあなたのこと、大好きよ。
海の生き物も陸の生き物も私に言葉を着せたがったけど
あなたは私をいろんな色にしてくれたもの。
だけどもうね、もう時間がないんだって。
海の魔女が言ってた。
月がにっこり笑ったらね、私は前よりもっともっとおおきな海月になるんだ。
また波にながされることしかできなくなっちゃうけど
私が海にとけて、私じゃなくなるまで、、
私が本当のこと言ったらあなたも海に来るでしょ、?
私はそれを望んでないけどあなたはそれを望んでる。
もしかしたらのお話なのにあなたが本当に来ちゃうから、怒りそうになった。
でも、ほんのちょっとだけほんとにちょっとだけ嬉しかった。
いまからあなたと海に溶けるけど、世界の終わりなんかじゃないんだけど
「あなたってほんとにおばかなのね。
海の中なんだから目を開けたら痛いのなんて当たり前よ、」