作品55 永遠の花束
「僕が見た花の中で一番君に似合うと思った花を、君にこの気持ちを伝えるたびプレゼントするよ。」
あの人から贈られた花と共に、貰ったその言葉。あの人なりの、精一杯の愛の言葉だったらしい。らしからぬ行動だったから、驚いて声が出なかった。
一輪だけ綺麗に包まれたその花は見たことのない花で、ふっくらとした花びらには真っ青な色が付いていた。南の花のように見える。匂いは、少しだけツンっとしていた。
あの人の方を見ると、何かして欲しそうな顔をしていた。恐る恐る頭にその花を近づけ、髪飾りのようにする。
あの人の方を見ると、嬉しそうな顔をしていた。これが正解らしい。
「……ねえ、どう?」
沈黙も気まずいのでそう言い彼の目を見ると、あの人は眩しそうに目を細め、
「似合ってるよ。すごく。」
そう言って私を抱きしめた。
「僕ら永遠に一緒にいようね。」
その言葉に濁りは感じられなかった。
それが分かるとなんだか怖くなって、思わず窓の方に目をやる。そこにはカーテンが閉まった窓があった。
ここに来てからずっと閉まっているカーテン。
今が夜なのか朝なのか、今日が何日なのか、季節は何なのか。
私には、それすら知ることを許されない。
記憶にある限り、私が最後に見た花は、そこら辺に生えてる黄色い小さな花だった。名前は知らないが、色合いが好きで、見つけるたびについ足を止めていた。
この記憶だけは、彼には汚されたくない。
そして願う。
もし叶うなら、もう一度あの花を、あの場所で見たい。
あの日から毎日毎日繰り返される、”永遠に一緒”という言葉。その度に花を渡される。数を重ねるごとに本数は増えていき、立派な花束になっていった。それに比例して、私と花の記憶が汚されていく。
今日もらった花は、黄色い小さな花。それは私の好きな花で、私が最後に外で見たあの花と全く同じものだった。
とうとうこれもか。
花を眺める。その瞬間、嫌な考えが頭に浮かんだ。
まさかと思い、顔を上げあの人を見る。その顔は気持ち悪いほど、笑っていた。それを見てこの考えが間違いではないと分かり、絶望する。
あの人に話しかけられた日から。
腕を強く掴まれた日から。
この家に閉じ込められた日から。
愛してると言われ汚された日から。
すべてを諦めた日から。
今日で、
「おめでとう。僕と結ばれて今日で一年だよ。」
これからも永遠に一緒だからねと言ったその声が、耳にこびりついて離れなかった。
作品54 終わらない物語
はっと目が覚める。
僅かな期待を込め、辺りを見渡す。悲しいことに、そこには見知った景色が広がっていた。
まだ寝ていたい。そう強い意志を持って寝転んだままでいるが、それでも体は勝手に起き上がる。やはり抗えないのか。
戦はまだ続いていた。何人もの兵が、俺の目の前を通り過ぎていく。すぐ近くで一人の兵が、矢に射抜かれ倒れていた。おそらく矢尻に毒でも塗られていたのだろうか。ひどく喘ぎ苦しんでいる。
しばらくそれを眺めていると、その兵が喋りかけてきた。
「おい、お前。おれを、楽に、させてくれ。」
その声はとても小さく、弱々しかった。
流石にためらうが、それをすることに慣れてしまった体は勝手に動き、男の首を刀をあてる。小声で南無阿弥陀仏と唱え、刀を動かした。途端に血が吹き出し、男の肌がどんどん薄くなっていく。
血が流れていくのを、俺はただ眺めていた。
本当は血が苦手だった。魚を捌くときですら薄目じゃないと耐えられない。妹によく馬鹿にされるほど。
それなのに、この戦のせいで血に慣れてきた。きっとこれから先、前みたいに馬鹿にされることはないのだろうな。
それでも、死に慣れてしまうのが、ささやかな幸せを感じられなくなるのが、それが、とてつもなく、怖い。
そう考えている間も足は勝手に動き、どんどん前へ進んでいた。もう少しで先に進んでいた隊と合流してする。いやだ合流したくない。まだ死にたくない。
だなんて、きっと今ここにいるみんなが、丸っきり同じことを考えているのだろうな。この運命からは逃げられないのに。
しばらく歩き続けていると突然、後ろから名前を呼ばれた。振り返って見ると、相手は俺の幼馴染であり、俺の唯一の親友だった。
ようっと、挨拶を交わし合う。彼の腕には、血がベッタリとついていた。
「大丈夫か?その血。」
「ああ?ああこれか。……全部返り血だ。」
苦々しい顔をして言う彼を見て、きっとさっきの俺と同じようなことを、たくさんのしたのだなとわかる。
「そうか……」
「……あと、どれくらい続くのかな。何人殺せばいいのかな。」
あと数時間だ。あと、五人だ。そしてまた繰り返す。
「なあ、俺達、絶対帰ろうな。」
絶対帰れない。戦から抜け出すことはできない。
なぜなら。
これから俺達は、まだ息があった敵の兵たちに襲われ、ボロボロになるまで切られ、そこから何とか生きて逃げるが、逃げた先では俺達の裏切り者がいて、俺らはそいつに目をつけられるからだ。
端的に言うと、このあと俺達は死ぬ。
だから今すぐ逃げなくてはいけない。
この場から今すぐ。それなのに、体は決まった動きしかしない。このことを伝えなければいけない。それなのに、口は同じことしか喋れない。
何度同じ光景を見ているのだろう。何度同じことを言うのだろう。なんで同じことしか言えないのだろう。
何も変えられない悔しさが、俺を苦しませる。
それでも。どんなに悔しさで泣きそうになっても、俺の表情は前回と変わらないまま、彼と喋っている。あと数歩歩けば、敵の兵に襲われるところに行く。そして傷つき、死に、またこれを繰り返す。
そう。繰り返すのだ。何度も何度も、俺はこの場面を、死ぬ瞬間を、何度も繰り返している。止めようとしても、何も変わらない。変えられない。
きっとここは小説の中だ。そうとしか考えられない。だからきっと、同じことを何度も何度も繰り返してるんだ。
くそったれ。なんで俺達なんだよ。
それでも足は歩みを止めさせてくれない。
そしてまた、前回と同じことが起きる。切られ、刺され、殴られ、逃げ、捕まえられ。
体が痛い。いや熱いのか。何もわからない。頭がガンガン鳴っている。重い。息が苦しい。汗が止まらない。寒い。まあ、いわば満身創痍ってやつだ。
その状態で、裏切り者に見せしめにされ、無駄に苦しむ。
あーあ。ぱっと死ねれば、こんな苦しい死に方しないのにな。
早くこの物語が終われば、もう死なないのにな。
それでもこの物語は、終わらない。誰も終わらせてくれない。終わりたい。
早く、最後の章を書いてくれ。もう何でもいいから、俺達を楽にさせてくれ。
そう願って今回もまた、手に握っている刀で首を切った。
そしてまた、
⸺⸺⸺
書き終えられてない物語の中で永遠に苦しむ者。
作品53 ただひとりの君へ
いつまで君を引きずっているのだろう。とっくのとうに、この世から消えてしまったのに。
それなのに、近所を歩いていると君が後ろから話しかけてくれる気がして、つい振り向いてしまう。誰かとすれ違うたび君ではないかって思ってしまって、その腕を掴みそうになる。
あの日から。僕らを切り裂いたあの事故があった日から、ずっとこうだ。
君のことを考えてもう会えないことを思い出しては、そのたびにくだらないことを考えてしまう。
幽霊を見れたらなって。そして話せればなって。そういうしょうもない、たらればばっかいつまでたっても考えてしまう。
今日はあの事故から数ヶ月経った。つまりは月命日だ。あの日から僕は毎日、墓へ行っている。もしかしたら君に会えるかも、なんて無駄なことを思って。今のところ思い通りになったことは一度もない。どうせ今日も、これからもそうだ。
だけど今日は別だった。君が来てたんだ。
一瞬幻かと思った。だけど、違う。本物だ。やっと、君に会えたんだ。
嬉しくて抱きしめようとする。だけど触れないことを思い出して、その現実に絶望する前にやめた。
少し離れて君を見る。その姿は、何というか、痛々しかった。
服で隠れてる体は、元々あった火傷痕と痣だらけ。そして顔には、あの日出来てしまった大きな傷がついていたから。
まあ僕の方は、顔を体もぐちゃぐちゃなんだけどね。
虐待されていた君。親に日常的に暴力を振るわれていた僕。何の縁かは知らないが、似た者同士の僕らはあそこの通りで出会った。そして互いの苦しみを分かち合い、慰めあった。
何ヶ月もそういう仲が続いたある日、君が泣きだして、死にたいって言った。その瞬間、僕は、君がこんなに苦しんでいるのに何もできないのが、どうしょうもないくらい苦しくなった。
だから僕は、君と一緒に逃げることにしたんだ。
殴ってくる親から。味方になってくれない家族から。見て見ぬふりする学校から。助けてくれない世間から。
どれかだなんて決められない。全部だ。全部から逃げようって、僕らは決めた。
それからはあっという間。ありったけの金を使い切ったら、食料確保のために犯罪も犯したりした。寝る場所は公園を選んだ。汚いとかは全部、どうでも良かった。苦しくなければ、全部どうでも良かった。
そしてあの日、次の居場所を逃げている最中に、僕らは車に轢かれた。
僕は死んで、君は顔に大怪我を負った
そうだ。
僕はあの日、世界一大切で世界にたったひとりしかいなくて唯一の理解者である君を、守ろうとして死んだんだ。
この気持ちを伝えることもできないままで。
作品52 あなたのもとへ
足を一歩、前に踏み出す。しばらくして体中が熱く、痛くなった。
あなたもあのとき、これを感じたんだね。
一目惚れだった。
冬の寒さに凍えながら、バスを待っていたあの日。ふと、スマホから目を離して周りを見ると、あなたが横で立っていた。何故か分からないけど、あなたの顔から目が離せなくて、僕はただ、あなたに見惚れていた。
すると、あなたの前に雪が一粒落ちてきた。あなたもそれに気づいて、ぼーっとした目で雪を見る。
その瞳とあなたの吐いた息の白さが、眩しくて、儚くて、美しかった。
視線に気づいたのか、こちらを向いたあなたと目があう。さっきまで感じていた寒さが嘘のように、耳まで一気に熱くなった。
思わず目をそらしてしまう。そしてすぐ、もったいないことをしたと思い、もう一度あなたを見る。
さっきまでいたところにあなたはいなくて、もしやと思い前を見ると、あなたは真っ赤に輝いた雪の上で眠っていた。
一生残る初恋と、数秒だけの片想い。
その数秒に、僕の人生は心ごと奪われてしまった。君の白さに見惚れて、君の赤に恋をしたあの日からずっと。
ここまで準備をするのに時間がかかったけど、もう少しであなたのもとへ行ける。
最期にあった僕のこと、覚えてくれてるかな。
⸺⸺⸺
以下色々かも肉が喋ってます(統一性一切なし)
足を一歩踏み出してする死に方って、ぱっと思いつくものだけでも三つ出てくるから、どれを当てはめるかによって“僕”が“あなた”へ抱いてる気持ちが微妙にずれてしまう。それが曖昧な感じして、個人的にはこの表現結構好き。これからもたくさん使っていく予定。
何かに見惚れてるときって、時間がどんなに流れても、本当に一瞬に感じるんだよな。
見惚れすぎてることを表すために、スマホを落としてしまったっていう文章入れようとしたけどできなかった。わざわざ書いたのに( ´・ω・` )。
自身が書くのって結構死ネタが多いんだけど、それには多分理由がある。話せば長くなるから、いつか書こうと思う。その時はちゃんと説明載っける。
自分のことを題材にして、フィクションは最低限で、お話を書いてみたい。平凡すぎてつまらないか。
それでは最後に。
_人人人人人人人人人人人_
>段落の付け方わからない<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
ご視聴あざした。
作品51 そっと
愛がほしい。
何でもいい。誰でもいい。愛を下さい。
いくら願ったって、そんなの叶わない。
自分が幸せになることなんて、一生ない。
そんなの分かってる。分かってるからさ。
こんな気持ちを抱いてしまった罪は償うから。
だからお願い。少しでいいから。
今だけどうか、そっと抱きしめて。
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作品11 どうすればいいの?
のその後。