作品53 ただひとりの君へ
いつまで君を引きずっているのだろう。とっくのとうに、この世から消えてしまったのに。
それなのに、近所を歩いていると君が後ろから話しかけてくれる気がして、つい振り向いてしまう。誰かとすれ違うたび君ではないかって思ってしまって、その腕を掴みそうになる。
あの日から。僕らを切り裂いたあの事故があった日から、ずっとこうだ。
君のことを考えてもう会えないことを思い出しては、そのたびにくだらないことを考えてしまう。
幽霊を見れたらなって。そして話せればなって。そういうしょうもない、たらればばっかいつまでたっても考えてしまう。
今日はあの事故から数ヶ月経った。つまりは月命日だ。あの日から僕は毎日、墓へ行っている。もしかしたら君に会えるかも、なんて無駄なことを思って。今のところ思い通りになったことは一度もない。どうせ今日も、これからもそうだ。
だけど今日は別だった。君が来てたんだ。
一瞬幻かと思った。だけど、違う。本物だ。やっと、君に会えたんだ。
嬉しくて抱きしめようとする。だけど触れないことを思い出して、その現実に絶望する前にやめた。
少し離れて君を見る。その姿は、何というか、痛々しかった。
服で隠れてる体は、元々あった火傷痕と痣だらけ。そして顔には、あの日出来てしまった大きな傷がついていたから。
まあ僕の方は、顔を体もぐちゃぐちゃなんだけどね。
虐待されていた君。親に日常的に暴力を振るわれていた僕。何の縁かは知らないが、似た者同士の僕らはあそこの通りで出会った。そして互いの苦しみを分かち合い、慰めあった。
何ヶ月もそういう仲が続いたある日、君が泣きだして、死にたいって言った。その瞬間、僕は、君がこんなに苦しんでいるのに何もできないのが、どうしょうもないくらい苦しくなった。
だから僕は、君と一緒に逃げることにしたんだ。
殴ってくる親から。味方になってくれない家族から。見て見ぬふりする学校から。助けてくれない世間から。
どれかだなんて決められない。全部だ。全部から逃げようって、僕らは決めた。
それからはあっという間。ありったけの金を使い切ったら、食料確保のために犯罪も犯したりした。寝る場所は公園を選んだ。汚いとかは全部、どうでも良かった。苦しくなければ、全部どうでも良かった。
そしてあの日、次の居場所を逃げている最中に、僕らは車に轢かれた。
僕は死んで、君は顔に大怪我を負った
そうだ。
僕はあの日、世界一大切で世界にたったひとりしかいなくて唯一の理解者である君を、守ろうとして死んだんだ。
この気持ちを伝えることもできないままで。
1/19/2025, 1:46:27 PM