巡り会えたら
もしも、もう一度あなたに巡り会えたら、私は何を思うんだろう。
嬉しかったりするんだろうか。それとも悲しかったりするんだろうか。
どんな顔をするか、検討もつかない。それでも、唯一わかることがある。もう一度巡り会えたら、きっとあなたは笑顔でこの出会いを祝福する。
たとえ、はじめましてでも、おかえりでも、久しぶりでも。
きっと、あなたは月のように優しい笑顔ですべてを許してくれる。
奇跡をもう一度
ただ、祈ったのだ。
寂れたその扉を開けた先で、私は別の世界を体験した。どことなく同じようなのに、全然違うその世界はひどく優しくて。
不意に戻ってきたあのときはショックで思わず泣いてしまった。でも、それくらいあの場所が大好きで、大切だった。
何度も何度も、この扉訪れては何も起こらないと肩を落とした。
それでも、信じ続けたのだ。あの世界は絶対に存在する。夢なんかじゃ、ない。
奇跡を、もう一度。そう祈って、寂れた扉を開ける。
その先には、懐かしくてあたたかいあの世界が広がっていた。
たそがれ
バイバイ、と手を振った。
黄昏時が君の表情を隠す。君がどんな顔をしているか、わからないから、僕もどんな顔をすればいいかわからなかった。
またね、とは言えなかった。さようなら、では二度と会えない気がした。
だから、バイバイ、と小さな子どものようにつたなく手を振って、振り返るのをやめる。
まだ君は、そこにいるんだろう。だけど、もう振り返ることはしなかった。
ただ、君を思い出にしたかった。
きっと明日も
カンカンカン、と踏切の音が鳴り響く。
ああ、きっと何も変わらない。たとえ、世界の片隅で何が起ころうが、みんな素知らぬ顔して過ごすだろう。
誰かが泣いていても、誰かがいなくなったとしても。
きっと明日も、世界は何事もなかったかのように回り続ける。
だから、せめて私は覚えておこう。君がいなくなったあの日、踏切の向こうで微笑んだ君の顔を覚えていたいんだ。
静寂に包まれた部屋
誰も、何も、言わなかった。
全員こうやって向かい合って座っているのに、話はない。
ただ、時々もれるため息と、衣擦れの音が静寂に包まれた部屋に響くくらいで。
「…………言い訳くらい、したら?」
弁明すらしないその様子に呆れて口を開けば、その人は力なく笑った。
言い訳すらしないんだ。所詮その程度だったんだと改めて認識する。
愛されていなかったか、と理解してしまえば、その人に対してもう何の感情も抱かなかった。
こんな父親ならいらない、と席をたってその場から逃げ出した。