別れ際に
君はひらひらと手を振った。少しだけ戸惑いがちに。
別れ際に君が言ったごめんね、の意味をいつになったらわかるんだろう。
通り雨
「なんで降るかなぁ」
ついてない、と肩を落とす若い女性は、突然降り出した雨から逃げるように店の軒下へと急いだ。
同じようにどこかの店に入る人や足早にかける人たちを見ながら、女性は空を見上げていた。
降る雨はそこまで強くないし、雲だってどんよりとした灰色のものではない。
もしかして、通り雨では、と思ったところで、店のドアが開く。
「おや、雨ですか? 降られてしまいましたね」
出てきたのは、女性の好みドストライクの顔立ちの男性だった。思わず凝視してしまえば、男性は少し照れくさそうに微笑んで、ドアを大きく開けた。
「よければ、寄っていきませんか?」
その誘いと己の欲望に忠実に従って、ドアをくぐる。
ああ、雨よ。通りすぎてくれるなよ。
秋🍁
「なんか、秋って急に来るよね」
友人は真剣な面持ちでそう話す。はぁ、と何とも気が抜けたような相づちをすれば、キリッとした声が返ってきた。
「昨日まで、まだ夏ですよー、みたいな顔だったのに、今日になった瞬間、いや秋ですけど何か? みたいな感じになるのなんか癪だと思わない?」
「まぁ、急に涼しくなったなぁ、とは思ったけど。そんなにか?」
「そんなによ。だって急すぎるでしょ」
「でも暦の上ではずっと秋だったでしょー」
「もう少し緩やかでもいいじゃない。準備が必要なの」
「なんで? 急な気温の変化で風邪ひくから?」
「そう。こう見えて私、か弱いの」
「んふ、か弱いのねー」
「何笑ってんのよ」
「いやー、秋だなって思って」
「?」
「センチメンタルな気分になりやすいからね」
「私のか弱い発言はセンチメンタルってか」
「はい、そうでございます」
「おいこら」
どちらともなく吹き出した笑い声は、幾分か涼しくなった風に吹かれていった。
窓から見える景色
教室の前から二番目、窓際のこの席が好きだった。
授業中に盗み見る窓から見える景色は、私しか知らないような特別感があった。
この場所、この角度からしか見えないその景色に心を奪われて。
ああ、きっとこの景色を忘れることはないだろう。
一年間を共にしたその場所から離れて、数日が経った。
あんなによく見ていた景色なのに、うまく思い出せないのは何でだろう。
形の無いもの
型どったら、ちゃんと目に見えるのかな。
君にも見えるのかな、わかってくれるかな。
愛、なんて形の無いもののためにハートという形を作って、それが愛だよ、って目に見えるようにしたんだ。わかるようにしたんだ。
でもね、結局のところよくわからないままなんだよ。愛という想いも、型どられたハートも、曖昧なままなんだ。