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9/8/2023, 1:45:58 PM

胸の鼓動


「終わるのが、好きなんだよね」
その人は妖しげに笑った。自分のものではない血をべったりとつけた左手で、息も絶え絶えな男の胸のあたりへを押しつける。
ゆっくりと、静かになる胸の鼓動をその手で感じ取りながら、恍惚とした表情を浮かべた。
「……悪趣味」
思わずそう呟けば、その人はどこか嬉しそうに微笑んだ。

9/7/2023, 2:11:21 PM

踊るように


ひらひら、舞い散る葉は踊るように。
ゆらゆら、揺れる枝は笑うように。
くらくら、歪む視界は、美しい世界を見させてはくれない。

9/6/2023, 2:00:07 PM

時を告げる


ボーンボーン、と低い鐘の音が時を告げる。
あるときは物語の始まりを、またあるときは魔法が解ける時間を、告げるそれは今日という日まで正確に時を刻み続けた。
そして、最後の鐘が鳴って、それは静かに時を刻むのを止めた。
ある人はこう語る。
「新しい物語は始まらないかもしれない。けれど、魔法はきっと永遠に続くでしょう」

9/5/2023, 1:52:10 PM

貝殻


「これ、どうぞ」
少し肌寒くなった夕暮れ時の砂浜で、そう声をかけられた。
そちらを向けば、夕焼けに染まったような赤い髪の女性が何かを差し出していた。
それは、貝殻だった。どこにでもあるような貝殻に見えるのに、夕日に照らされたそれが何だか妖しく光るから。
気がついたら、その貝殻を受け取っていた。
女性は柔らかく微笑んで、手を振る。
「よい旅を」
その言葉を理解したと同時に、世界は自分の知っているものとは変わっていた。

9/4/2023, 1:59:12 PM

きらめき


君の横顔をそっと盗み見た。
月明かりに照らされた瞳が潤んで、瞬きをすれば柔らかく煌めく。
「泣いてるの?」
そう呟くように問いかければ、君はこっちを見て微笑みながら頷いた。
「うん。星空が綺麗で涙が出るの」
そう言った君の瞳は、まるで星空に恋をしているようだった。

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