鳥かご
捕まえられて、囚われて。一生この鳥かごの中で過ごすのだと思えば、抜け出したくて仕方がありませんでした。
そう嘆き悲しんでいると、その人はそっと鍵を開けました。
「いいよ、行って。逃げて、いいよ」
不気味なほどに優しく微笑んだその人から、逃げるようにかごから飛び出しました。逃げて、逃げて、走って。やっと訪れた自由を心から噛みしめて喜びました。
少し経って、私はなぜかまた同じようにその人の元にいました。連れ戻されたわけではありません。自分の足で来たのです。
「おかえり。戻ってくるって、思ってたよ」
そう微笑んだその人は私をそっと抱きしめました。
ああ、きっと最初から鳥かごなんてなかったのです。もうずっと前から囚われたままなのですから。
友情
友よ。私の、大切な親友よ。
君ならきっと辿り着くだろう。たとえ困難な道でも、道なき道でも、未踏の地でも。君は歩き続けるだろう。
わくわくと期待に胸を膨らませ、前だけを見つめ続ける瞳はきっと太陽よりも眩しく輝いているだろう。
友よ、私は君のことを誇りに思う。私では辿り着けなかったその場所に、立つのは君だ。
きっとそこから見る景色は想像を絶する。
たとえどれだけ美しくても、どれだけ壮大でも、どれだけ恐ろしくても。こんな想像なんか軽々と越えていくだろう。
きっと傷つくこともある。悲しくなるときもある。それでも、嬉しくなるときもあるだろう。
友よ、どうか歩き続けてくれ。
その道の先に、幸多からんことを。
花咲いて
芽が出て、つぼみになって、花が咲いて。
一番美しい姿で君は目を覚ます。開いた花びらが優雅に風に揺れて、君と目が合った。
花壇に植えられた君と、道端に自生した雑草と大差のない僕。これは、そんな僕たちのお話。
もしもタイムマシンがあったなら
この悲劇を避けることができた未来に行けたりするんだろうか。
浮かんだそのありもしない考えに、思わず鼻で笑いそうになった。
だって、過去に戻るためのタイムマシンだなんてないのだから。これはもしもの話なのだから。未来には行けたりはしないのだから。
それでも、そのもしもが本当になったら、どれだけ嬉しいだろうか。変えたい過去も、未来も、たった一つの機械が叶えてくれるのならば、どれだけいいだろう。
そう思うのに、そう願うのに、簡単には変えることはできなくて。きっとタイムマシンがあっても、必ずしも変えられるわけではないんだろう。
それでも願うのだ、そのもしもがいつか本当になる日を。
今一番欲しいもの
「そんなこと急に言われても……」
顔を上げた彼女は困ったように眉を寄せる。世間話の延長線で欲しいものを聞いてみたら、その人の本当に欲しいものが聞けるのではないか、と思い、実験半分で聞いてみたのだ。
視線を上に向けながら、考え込む彼女に追いうちをかける。
「本当に欲しいものないの? 今一番欲しいもの」
「今一番欲しいもの、ねぇ……。そうだなぁ、君を抱きしめてキスする権利とかかな」
「え、私に?」
「もちろん。……ダメ?」
「だ、だめ」
「ダメかぁ」
ちょっぴり残念そうに言いながら、彼女は伸びをするみたいに腕を伸ばした。
「他にないの、欲しいもの考えてよ」
「考えた結果ですよー」
「……一つだけお願い聞いてもらってもいい?」
「いいよ、なぁに?」
「だ、抱きしめて、キスして……?」
お互いに顔を真っ赤にしながら、ぎこちなく抱きしめ合って、震えながらキスをした。