今一番欲しいもの
「そんなこと急に言われても……」
顔を上げた彼女は困ったように眉を寄せる。世間話の延長線で欲しいものを聞いてみたら、その人の本当に欲しいものが聞けるのではないか、と思い、実験半分で聞いてみたのだ。
視線を上に向けながら、考え込む彼女に追いうちをかける。
「本当に欲しいものないの? 今一番欲しいもの」
「今一番欲しいもの、ねぇ……。そうだなぁ、君を抱きしめてキスする権利とかかな」
「え、私に?」
「もちろん。……ダメ?」
「だ、だめ」
「ダメかぁ」
ちょっぴり残念そうに言いながら、彼女は伸びをするみたいに腕を伸ばした。
「他にないの、欲しいもの考えてよ」
「考えた結果ですよー」
「……一つだけお願い聞いてもらってもいい?」
「いいよ、なぁに?」
「だ、抱きしめて、キスして……?」
お互いに顔を真っ赤にしながら、ぎこちなく抱きしめ合って、震えながらキスをした。
7/21/2023, 3:29:57 PM