H₂O

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4/21/2023, 2:55:15 PM




「みてー! 何にもなーい!」
少女の元気いっぱいの声が響く。その声につられてそちらを向けば、見慣れた景色とは大きくかけ離れていた。
一ヶ月、いやもっと経っているだろうか。日にちの記憶は曖昧だが、相当な時間が経っていることだけはわかっていた。
何日も、何日も降り続いた雨は水位が増した川のように建物を沈ませる。十階ほどあったこの建物もほとんど浸水してしまって、十階部分と屋上だけが水上から飛び出ているようになっている。
この辺り一帯は背の高いビルはあまりないから、見晴らしのよすぎる景色になってしまった。
久々に晴れた空に懐かしさを感じているとベランダに置かれたバラの花びらに溜まった雫がゆっくりとこぼれ落ちる。
水面が円を描くように揺れて広がり、やがて消えていく。
「これからどうしようねぇ?」
そんなことをのんきに考えながら、果てまで続く水平線を見ていた。

4/20/2023, 2:19:34 PM

何もいらない


何もいらない、そう言って、自分に嘘をつき続けた。
気がつけば、いつの間にかまわりには何もなくて、誰もいなかった。
あれ、何してたんだっけ。
そう呟いた声さえも他人事に聞こえて。
何もいらなかったはずなのになぁ。

4/19/2023, 2:05:17 PM

もしも未来を見れるなら


起こり得る不幸も、訪れる幸福もすべて知った上で、君は一体どんな選択をして生きていくんだろう。
その未来を避けるために生きるのかな。その未来を叶えるために生きるのかな。
それとも、その未来を利用したりするのかな。
未来を見てきた君はきっと、知らなかった頃には戻れないから。もう二度と純粋な未来に想いを馳せることはないんだろう。

4/18/2023, 1:31:10 PM

無色の世界


それははじまりだ、と人は言った。
何色にも染められていない、まるでキャンバスのようなそこには何もなかった。
ある人が言った。
それは君だけの世界だ、と。好きなものを集めていいし、好きなように色をつけていい。混ざりに混ざった色が綺麗じゃなくても、黒くなってしまってもいい、と。
君が経験したことが形になって、君が感じた気持ちが色になって、いつかここは君の世界になる、と。
だから、まだ何色にも染まっていないここは、はじまりだ。色のない、味気のない世界だけれど、君が色をつけてくれるのを待っているんだよ。君の世界になるのを待っているんだ。

4/17/2023, 1:56:31 PM

桜散る


今日は風が強いなぁ。そんなことを思ったのは、窓から見える空を横切る雲たちがいつもよりも速いスピードで形を変えながら通っていくからだ。
せっかく満開になった桜もこの風じゃほとんど散ってしまうだろう。
儚いねぇ、そう呟きながらコーヒーを啜る。
別にお花見がしたいわけでも、桜を見たいわけでもない。
ただ、もう少しこの季節を味わっていたいのだ。

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