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3/12/2023, 1:42:10 PM

もっと知りたい


知らないことがある度に、なぜかわくわくしていた。知らないことは恐怖を抱かせるのに、心が高鳴って、知りたいを満たそうとする。
本を読んで、ネットで調べて、誰かに尋ねて、実際にやってみたりして。そうして知らないことを知っていった。
知識がつけばつくほど面白くて、世界がどんどんと色づいていって、それでもまだまだ知らないがこの世には存在するから。
もっと、もっと知りたいんだ。この世界の生い立ちも、謎も、私たちがどこに向かっているのかも、もちろん君のことだって、知りたいんだ。
すべてを知ることはできなくてもいい。だって時間が足りなすぎるから。だから、少しでも多く、この知りたいを満たして、私の世界に色を付けるんだ。

3/11/2023, 1:51:14 PM

平穏な日常


それは彼女が望んだ未来だった。
生きていくために争い、奪い合い、憎しみが蔓延る世界でも彼女は諦めなかった。
いつかまたこんな争いなんてない、平穏な日々がやってくると信じて、そうなるために力を尽くした。人を信じ、人を愛し、家族と呼べる仲間を増やし、そうして作り上げたコミュニティは彼女のようにあたたかくて、いい人ばかりだった。
飢えることもなければ、雨風にさらされることもない。誰かから命を狙われることもない、そこは安全で、ようやく私たちは安心することができた。
彼女が作り上げた町では今日も笑顔が溢れていた。特別なものなんて、何もない。ただただとりとめもない平穏な日常がゆっくりと流れていくだけだった。
それを見た彼女は優しく微笑んだ。
「前のように戻れなくてもいい。別に新しくなったっていい。ただみんなと笑い合えたら、それでいい」

3/10/2023, 2:53:58 PM

愛と平和


愛と平和が説かれた本があった。書かれているのは綺麗な言葉ばかりで、胸焼けがしそうだった。
こんな本一冊で世界が愛と平和に包まれるくらいなら、世界はもうすでにそうなっていたっておかしくはないはずだ。なのに、どうだろう。
目に映る景色はあまりにも残酷で、汚いところがよく見えるだけ。愛なんて奪って、奪われて、意味のない争いを毎日続けているだけ。
そんな世界に嫌気が差して、その本を放り捨てた。そうしたら、それを見ていたある人はこう言った。
「君がそうやって投げ捨てるから、君の世界からそれがなくなるんだよ」
怒るわけでもなく、教えを説くようなものでもないその声は、ただただ優しげで。『愛と平和』と書かれた本を拾い上げて、こちらを向いて少しだけ微笑んだ。
「あなたが見たいようにしか、世界は見れないんだから」

3/9/2023, 1:40:54 PM

過ぎ去った日々


過ぎ去った日々を思えば、それは一瞬の風のようで、ともすれば分厚いアルバムのように思い出ばかりがつまっていた。
いいことも悪いことも、嬉しかったことも悲しかったことも。振り返ったその過去を愛しく思えたのなら、きっと幸せなことで。
まだ許せないことがあっても、いつか癒える時が来るのかもしれない。そんな些細な願いを未来に託して。
いつの日か最後を迎えるそのときまで、このアルバムをもっと分厚いものにしよう。何てことない日々も、些細な出来事も、忘れてしまうかもしれないけれど、無かったことにはならないから。
だから、最期のときに一瞬だけども膨大な走馬灯を見ようじゃないか。
過ぎ去った日々たちに抱かれて、天国への旅路のお供に。

3/8/2023, 1:14:55 PM

お金より大事なもの


心にひびが入って、割れて、壊れる音がした。
急に自分が今何をやっているかがわからなくなって、笑顔の作り方もわからなければ、泣き方だって忘れてしまった。
毎日を消費するように息をして、働いた分に見合うかもよくわからないお金をもらっては、日々をただ過ごしていた。
仕事にやりがいなんてなくて、汗水たらして必死になって働いたかと言われれば、そんなことはない。無気力だけど、それがバレない程度にはやっていたはずだ。
起きて、会社に行って、仕事をして、帰って、眠る。
休みは惰性に過ごして、代わり映えなんて一切ない日々を過ごしていた。
だから、なのか。急に心が壊れてしまって、自分の感情を正しく感じることも理解することもできなくなってしまった。
何のために働いているのか。生きるため、お金のためであるのは間違いないけれど、何のために生きているのかがわからなかった。
ああ、このままずっと、それこそ死ぬまでお金のために働かなければならないのか。
そう思えば、なんだか惨めに思えてきて息が苦しくなる。生きるために必要なものなのに、大事なものなのに、どうしてこんなにも苦しめられるんだ。
そこでようやく気がついた。何よりも大事にしなきゃいけない自分自身のことを、何よりも疎かに扱っていたということに。
開いた目からは涙が勝手に溢れ出てきて、やっとかえってきた心の欠片をぎゅっと握った。
お金より大事なものなんて、そりゃいっぱいあるだろう。でも、自分のこと、自分の心より大事なものなんてあるんだろうか。

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