H₂O

Open App

愛と平和


愛と平和が説かれた本があった。書かれているのは綺麗な言葉ばかりで、胸焼けがしそうだった。
こんな本一冊で世界が愛と平和に包まれるくらいなら、世界はもうすでにそうなっていたっておかしくはないはずだ。なのに、どうだろう。
目に映る景色はあまりにも残酷で、汚いところがよく見えるだけ。愛なんて奪って、奪われて、意味のない争いを毎日続けているだけ。
そんな世界に嫌気が差して、その本を放り捨てた。そうしたら、それを見ていたある人はこう言った。
「君がそうやって投げ捨てるから、君の世界からそれがなくなるんだよ」
怒るわけでもなく、教えを説くようなものでもないその声は、ただただ優しげで。『愛と平和』と書かれた本を拾い上げて、こちらを向いて少しだけ微笑んだ。
「あなたが見たいようにしか、世界は見れないんだから」

3/10/2023, 2:53:58 PM