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1/21/2023, 3:25:27 PM

特別な夜


今夜は特別な夜になるね。君はそう言った。
でも蓋を開けてみたら、なんてことない夜で、いつもと何も変わらなかった。
どうして特別な夜になるなんて言ったの、と聞けば、彼女は優しく微笑んでこう言った。
今は特別だとは思えなくても、いつかは特別だと思える日がくるかもしれないでしょ?
だから、特別な夜になるって言ったんだよ。

1/20/2023, 2:50:39 PM

海の底


海の底には何があるんだろう。
個性豊かな深海魚たちが泳いでたりするんだろうか。それとも沈没船がただ静かに佇んでいるのかな。
誰かが隠したお宝が眠ってたりするのかな。それともはるか昔に栄えた都市が沈んでたりするんだろうか。
もしかしたら、その都市には今も誰かが住んでいたりして、なんてことを考える。
海底には色んなものが眠っていると言う。私たちがまだ知らないだけで、まだ見つけていないだけで。
海の底へ、今日も僕らは夢を見ている。

1/19/2023, 1:54:23 PM

君に会いたくて


ただ、君に会いたくて目を閉じる。
最初に会ったのはもういつ頃だったか、なんてあまり覚えていなくて。そのくせ今でも覚えているくらいには印象的な出会いだった。
知ってはいけない秘密を耳にして、偶然居合わせた君とその場所から逃げるために、手首にはめられた発信器を木のフェンスに何度も打ち付けて壊した。
赤くなった手首が痛むけれど、君の手を取って、逃げ出した。走って、走って、走って。
後ろから聞こえてくる怒号から振り切るように、走り続けて、唐突に君は手を離した。
先に行け、と。このままじゃ二人とも捕まる、と言って、君が背中を押す。
嫌だ、置いていきたくなんかない。それに君は私を逃がすためにわざと捕まるでしょう?
そんなの絶対に嫌だった。
君の手を取って走り出したいのに、見えない壁が二人の間には確かにあって。
ここから先は行けないから、まるで知っていたかのように君は諦めた顔でそう言った。
それが君との出会いで、最後だった。だから、もう一度君に会いたくて、今日も目を閉じる。
名前も顔もよくわからないけれど、知っているはずなんだ。だって、知っていないとおかしいんだ。
夢は記憶の整理だから。君は私の記憶の中にいる誰かだから。
だから、もう一度君に会いたくて。会って君が誰なのか、知りたいんだ。
思い出させてよ、君のことを。

1/18/2023, 2:24:15 PM

閉ざされた日記


時に、日記は色んな理由があって、その続きを書くことをやめてしまう。たとえば、飽き性で続かないだとか、毎日書くことが一緒でつまらなくなっただとか、書く必要性を感じなくなっただとか。時には、やめざるを得ないような事情ができたとか。そうして、日記を書くことをやめて、いつしか棚の奥へと押しやられ、開くことすらなくなっていく。
そんな閉ざされた日記たちが集められたここは「Dear」と呼ばれる日記の博物館のような、図書館のような場所だ。
さまざまな日記が各地から集められて、無機質な本棚を色鮮やかにうめつくしていく。ずいぶんと古いものから、比較的新しめのものまで種類豊富に揃っていた。
中を読めば、そこにはその人の一日が、数ヵ月が記されていて、その人から見る世界を見れるような気がして好きだった。
何冊にもわたるような日記には、その人の半生が書かれていて、ノンフィクションの小説と何ら変わらない。
ただ、その人の一部がここに、閉じ込められて眠っていた。
また一冊日記を読み終えて、ふと窓の外を見る。夕暮れの空が切なくて、美しくて、今のこの感情を忘れないように、自分の日記に記す。
いつか、誰かがこれを読むかもしれないと思うとなんだか変な感じがするけれど、この気持ちごと残しておきたかった。
日記に今を閉じ込めて、次会うときまで、おやすみなさい。

1/17/2023, 2:19:17 PM

木枯らし


びゅう、と風が吹いて、地面に広がる枯れ葉が舞い上がる。私の心も同じようにこの木枯らしが掬い上げてくれればいいのに。
そんなことを思いながら、枯れ葉を踏みつける。軽快な音が鳴って、足をどければ、そこには元の形がどうなっていたのかすらも曖昧な枯れ葉の破片が落ちていた。
ああ、こんな風に心も簡単に壊れてしまえばよかったのに。歪で所々欠けているのに、まだ形を保とうとする心が、まだそこにいるから。
はぁ、とため息を吐いて、この心を差し出すように空へと手を伸ばした。
さぁ、木枯らしよ。どうぞこの心をさらってくれ。

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