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君に会いたくて


ただ、君に会いたくて目を閉じる。
最初に会ったのはもういつ頃だったか、なんてあまり覚えていなくて。そのくせ今でも覚えているくらいには印象的な出会いだった。
知ってはいけない秘密を耳にして、偶然居合わせた君とその場所から逃げるために、手首にはめられた発信器を木のフェンスに何度も打ち付けて壊した。
赤くなった手首が痛むけれど、君の手を取って、逃げ出した。走って、走って、走って。
後ろから聞こえてくる怒号から振り切るように、走り続けて、唐突に君は手を離した。
先に行け、と。このままじゃ二人とも捕まる、と言って、君が背中を押す。
嫌だ、置いていきたくなんかない。それに君は私を逃がすためにわざと捕まるでしょう?
そんなの絶対に嫌だった。
君の手を取って走り出したいのに、見えない壁が二人の間には確かにあって。
ここから先は行けないから、まるで知っていたかのように君は諦めた顔でそう言った。
それが君との出会いで、最後だった。だから、もう一度君に会いたくて、今日も目を閉じる。
名前も顔もよくわからないけれど、知っているはずなんだ。だって、知っていないとおかしいんだ。
夢は記憶の整理だから。君は私の記憶の中にいる誰かだから。
だから、もう一度君に会いたくて。会って君が誰なのか、知りたいんだ。
思い出させてよ、君のことを。

1/19/2023, 1:54:23 PM