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12/17/2022, 1:51:29 PM

とりとめもない話


「寒いね」
雪が降った日、君はそう言った。
「暖かくなってきたね」
桜が芽吹いた日、君はそう言った。
「暑いねぇ」
灼熱の日差しが注ぐ日、君はそう言った。
「もうすっかり肌寒くなってきたね」
紅葉が深まる日、君はそう言った。

なんてことない話ばかりしてきたと思う。肝心なことには一切触れず、当たり障りのないような話題を取り上げていた。
それでも、たしかに君のことが好きだったし、愛していた。はず、だ。
でも、それももう終わりだ。たった一言で終わったこの関係が、あまりにもあっけないものだったと今更ながらに気づく。
君とともに歩んだ一年が、今もまだそこにあるような気がして。
もう君は隣にはいないけれど、移り変わりゆく季節をともに感じることはできないけれど。
どうか、次は君がちゃんと幸せになれますように。
まだ君のことを思い出してしまうけれど、思い出にするには心の準備ができていないけれど。君の幸せだけは祈りたいんだ。

12/16/2022, 1:35:57 PM

風邪


いつもよりも体温が高いから、あなたの体温がよくわからなくて。それなのに額に乗せられた手のひらが冷たくて気持ちがいいから、ずっとそのままでいてほしい、なんて思うんだ。
風邪がうつるから、早く部屋から出ていってほしいのに、なぜかいつもより寂しさを感じるんだ。
どこにも行かないで、なんて涙がぽろぽろ流れてきて、あなたがそっと拭う。
「はやく良くなってね」
いつもよりも少し低い声で囁くように言われたそれに応えるように眠りにつく。
目が覚めたら治っていますように、あわよくばあなたがすぐ近くにいてくれますように。そう思いながら。

12/15/2022, 1:38:24 PM

雪を待つ


待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
時計の針は約束の時間から二周近く回っていたが、それでもまだ君のことを待ちたかった。
久しぶりだから、と張り切って着てきた服もすっかり冷えきって、手袋をしているのに指先がかじかむ。吐き出した息が白い。
だんだんと空には雲が立ち込めて、雪が降るかもしれませんね、と今朝のニュースキャスターの言葉が思い出さされる。
なら、雪が降るまでは、君のことを待とう。
早く雪よ、降れ、なんて体は訴えるのに、頭が、心が雪なんて降るな、なんて考えるから、思うから。自分でもバカだなぁ、なんて思う。
だから、君が来るまで待とうなんて、もう思わない。ただ雪が降るのをずっと待っていた。

12/14/2022, 12:29:30 PM

イルミネーション


「暗くて怖いから嫌だ」
夜に出歩くことを一切しない君になぜなのか、と理由をきけば、そう返ってきた。
たしかに真っ暗な場所もあったりするが、基本的には色んなところに電気が点いていて暗すぎるわけではない。
夜景、なんて言葉があるように今は夜でも明るすぎるくらいだ。
だから少し嫌がる君の手を引いて夜の街に繰り出す。ずっとうつむいたまま後ろを歩く君の視線が上を向くように声をかけた。
パッと顔を上げて、その瞳に映る鮮やかな光は一瞬にして君を笑顔に変えた。
「綺麗……」
繋いでいた手をゆっくりと離し、君は光輝くイルミネーションの中を楽しげに歩く。
くるり、とこちらを振り返って、微笑む君はその輝く光たちよりも美しかった。

12/13/2022, 12:59:38 PM

愛を注いで


「おはよう」
そう声をかけて、まだ小さい芽に優しく水をやる。
湿った土とその真ん中で、小さいながらも堂々としている姿に命の愛しさだとか、尊さみたいなものが心を満たす。
「大きくなーれ」
愛情を受けた花は美しく咲くらしい。だから今日も慈しみを、愛を注ぐ。
いつか咲くその美しさを夢に見ながら。

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