H₂O

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11/7/2022, 1:04:41 PM

あなたとわたし


あなたって誰のこと?
わたしって本当にわたしなのかな。
わかんないよ、そう吐き出せば、頭の上からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「そんなの、私だってわかんないよ」
そう言った彼女にわからないことなんてないと思っていたから、少しだけ驚く。どうすればいいの、そう聞けば彼女はニヤリと笑った。
「はーい、みんな注目! 問12の『You and me』だけど先生思いっきし下線引く部分間違えたので、そこ答えなくていいからねー。これは先生が悪いからみんなにそこの点数分はあげちゃう」
その言葉にしん、としていた教室は笑い声や歓喜の声であふれる。
「ほーら、テスト中だからまだ静かにー」
しー、と人差し指を唇に当てる彼女と目が合う。見つめ合って互いに吹き出しそうになってしまったのはみんなには内緒だ。

11/6/2022, 12:21:52 PM

柔らかい雨


ぽつぽつ、と地面に模様ができる。空を見れば、晴れているところもあるのにその雨は細かい粒子みたいになって降ってきた。
立ち並ぶビルの窓ガラスや緑が美しい生け垣、道端に咲く花やアスファルトがしっとりと濡れて、それらにそっと寄り添う水滴が太陽の光に照らされて美しく輝く。
雲の隙間からは青空が顔を出したまま、世界は雨独特の暗さにはならず、ちょっとだけ幻想的な時間が流れた。
傘を差さなくてもこのくらいの雨なら濡れたって変に不快にはならないから、止めていた足を再び動かして柔らかな雨にうたれながら歩き出す。
少し遠くの空に見えた七色に心を踊らせて、踏み出す足が軽くなる。
向かう先はもちろん、あの七色をぬけたもっと先。
希望はきっとそこにある。

11/5/2022, 12:58:40 PM

一筋の光


トンネルの中みたいな真っ暗闇で、一筋の光が差した。そっちへ行こうと君の手を引いたら、君は立ち止まったまま動かなかった。
何も信じられなくなった君には、その光すら怖くて、信じられなくて。
だから僕はそっと君の手を握った。
震える君を無理やりその光のもとに連れていきたくはなくて、僕も君と一緒にまだその闇にいることを決める。
いいんだ、君が本当に大丈夫になるまでここで待っているから。
だから、今は君の隣にいることくらい許してくれないだろうか。

11/4/2022, 2:17:41 PM

哀愁をそそる


少女は夜に一人踊り明かす。
少し埃っぽい屋根裏部屋で、音楽もなく踊っていた。
派手な踊りではないし、妖精のようだと表現するにはあまりにも大人びていた。
月明かりに照らされる少女の線は細く、儚げで、表情はどこか哀愁をそそるような、もの悲しい瞳をしていた。
観客のいない小さな部屋で今日も月のスポットライトに照らされて少女は最後のポーズを決める。
ゆったりとした仕草でお辞儀をする。
その様子をじっと見つめていた月が拍手をするように煌めいた。

11/3/2022, 12:19:15 PM

鏡の中の自分


鏡に映る同じ顔したその子は、あまり笑わない。
朝は眠たそうで気だるげだし、昼は少し元気そうだけど、夕方になるとまた疲れた顔をしている。
夜の歯磨きなんかはスマホの画面に夢中でこっちのことなんか見向きもしない。
そのくせ気合いの入っている日は何度も何度も鏡をチェックするんだから。仕方ないなぁ、なんて思うけど、まぁ楽しそうにしているからいっか。

だから、あなたの毎日がもっと楽しくなるように私は今日も鏡の中で微笑む。
あなたからは何一つ変わっていないように見えているけれど、私の笑顔があなたにうつればいい。
同じように笑ってくれたら、きっと楽しくなるから。笑っている顔が一番素敵なんだから。

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