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10/23/2022, 12:30:20 PM

どこまでも続く青い空


その一瞬、風が強く吹いた。風が髪を揺らし、服の隙間を通り抜ける。
世界はシン、と音を立てるのをやめて、その一瞬を永遠のように思わせた。
目の前に広がる壮大な景色に、自分の存在があまりにもちっぽけなものだと改めて自覚する。それなのに自分以外に動くものが何もないから。まるで世界には自分しかいないみたいに感じるから。
どこまでも続く青い空には道標になる雲すらなくて、それでいてどこへでも好きなところへ行けと背中を押されているように感じた。
背中を押す風に抗うように振り向く。向かい風の中、この道を進むのは厳しいとは知っていたけれど、不思議と笑みがこぼれていた。
向かい風だってかまわない、道標なんてなくたっていい。
私が歩いた後ろが道になればいい。私が誰かの道標になれたら、いい。

10/22/2022, 1:42:38 PM

衣替え


元気にしていますか。
最近は朝晩と冷えますから、体調を崩してはいませんか。
何事もなく、元気でやっているならそれで構いません。
たよりがないのはよいたより、とでも言うんでしょうか。
でもたまに心配になるので、気が向いたときに連絡をください。
さて、もうそろそろ夏服はしまいましたか。
これからはどんどん寒くなるので、あったかい服を用意してくださいね。
面倒だからって夏服のままでいたら風邪を引きますよ。
過ごしやすい季節はすぐ過ぎてしまいますが、あなたが今日も何事もなく過ごせることを祈っています。

10/21/2022, 2:00:57 PM

声が枯れるまで


二人の少女の歌声が夕方の空に響く。歩道橋を渡る二人は手を繋ぎながら、楽しそうに歌っていた。
数日後、一人の少女が歩道橋の前にいた。小さく息を吸い込み、歌い出す。弱々しい歌声に嗚咽が混じる。
しかし、少女は歌うことをやめなかった。大きな声で、天にまで届くように歌う。涙が流れ落ちるのをそのままに、声が枯れるまで歌い続けた。
視線を下げ、少女は握りしめていた花束をそっと横断歩道の脇に置く。置かれたたくさんの花束に埋もれるように置かれたそれにはもう一人の少女が写っていた。

10/20/2022, 1:28:21 PM

始まりはいつも


始まりはいつも1からだと思っていた。
何かを数えるとき、月の始まり。
1はいつだって始まりの数字とされている。
1がいるなら、0がいる意味はあるのかな。
始まる前の数字。始まる前のそれはまるで何もないみたいに感じさせる。今の君じゃ0だよ、って言われてるみたいで。
何かを始める前はいつだって0で、何かを始めた瞬間にきっと1に変わっていくんだ。
始まりはいつだって1だ。だけど、0から1にしていくことが大事なんだ。
一歩踏み出すんだよ。止まったまま、歩くのをやめたままそこに立って、何もできないなんて言わないでよ。
一緒に、一歩だけでいいから、歩こうよ。
その先に君が望んだ世界があるかもしれないじゃないか。
怖くたっていい。進んだかわからないくらい小さな一歩だってかまわない。
だってそれだけで君は踏み出せたんだから。
目的地がはるか遠くにあったとしても、スタート地点は君の後ろにあるんだから。

10/19/2022, 12:23:22 PM

すれ違い


人混みの中を歩きながら、ふと考える。
人は一日にどのくらいの人とすれ違うのだろう。
そのうちどのくらいの人と話をするんだろう。
顔と名前が一致するのはどのくらいいるんだろう。
仲良く話せる人は、大切だと思える人は、どのくらいいるんだろう。
すれ違う人たちの顔を見ながら、明日にはきっとその顔も忘れてしまうんだ、と改めて感じる。

それでも、あの日君とすれ違わなくてよかった。
君が話しかけてくれて、よかった。
こんなにも人が溢れている世界で私のことを覚えていてくれる人が、君でよかった。
人と出会うのはきっと奇跡みたいな確率で、その一つが君でよかったんだよ。嬉しかったんだよ。
出会ってくれて、ありがとう。

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