秋晴れ
水たまりに映る反転した景色があまりにも美しくて、思わず顔をあげた。
視線の向けた先にあったのはどこまでも続く青い空。
昨日はあんなにも空が大泣きしていたのに。
まさしく秋晴れというにふさわしい、清々しいほどの空だった。
その美しさに訳もわからず、涙がこぼれそうになるのを泣いてすっきりしたような空が肯定するように見守る。
泣いたっていいんだよ。それですっきりして、また笑顔になれるなら。泣いて、泣いて、涙が枯れるまで泣いて。
この空と同じように、清々しく、美しく、君らしい笑顔になれるなら。
忘れたくても忘れられない
忘れたくても忘れられないことがあった。
どうしても忘れたくて、選んだ方法はあまりにも犠牲が大きかった。
記憶は思い出すときに定着するらしい、その話を聞いて思い付いたのは、思い出さなければいい、という結論だった。
忘れたいことを極力思い出さないように、他のことを考える。
そうして出来上がったのは記憶力の低下した脳みそだった。
記憶は思い出すときに定着する。その思い出すという行為を意図的にしないようにすれば、記憶には定着されず、記憶に残りにくくなる。
いつしか習慣化された思い出さないという行為のせいで楽しかったことも嬉しかったこともうっすらとしか残っていなくて。
ああ、この方法はやっちゃダメだったんだ、と気づいたときにはもう遅すぎたんだ。
やわらかな光
いつもよりもはやく起きた朝のことだった。
淡い朝の色がとても綺麗で、まだ残る月が朝と夜の境界線を曖昧にさせる。
朝なんて来てほしくなかったのに。
明日なんてこなくてもよかったのに。
そう思っていたのに、その美しさに心を奪われて、思うんだ。
こんな朝なら明日も来てよ、って。
まだ世界は美しいんだって思わせてよ、って。
淡くやわらかに光る月がひどく曖昧な時間を優しく見守っていた。
鋭い眼差し
その瞳が好きだった。ふとしたときに見る鷹のような鋭い眼差しが、凛とした横顔が、君の強さを表してるようで。
その強さが美しくて、憧れだった。
でもたまに見せる弱さが、君らしくて。
弱さを見せることができるのも強さだと君が教えてくれたんだ。
弱くたっていいんだよ。強くあろうとしなくていい。
強さが美しいように、弱さだって美しいんだよ。
鋭さとは違う、儚さを持ったそれは君の美しさの一部なんだ。
高く高く
高く高く飛んでいく、あの風船になりたかった。
何も縛るものもない、あの風船に。
重力だって、君のその小さな手だって。あの風船を縛るには弱すぎる。
高く高く、もう届かないほどに高くをゆらゆらと飛んでいく風船を眺めながら、そっと風船のひもに心を結んで飛ばす。
心だけは自由だから。何を思っても、何を感じても。
君だけのもの。君だけの心だから。
縛るものは何もない。あの風船のように、ゆらゆらと飛んでゆけ。