学生
───
私の後ろで扉が勢いよく開いた音がしたと思ったら、急に後ろから締め付けられた。でも優しい温かさを感じる。
「…ねぇ、なにこの状況?誰かに見られたりしたら…って、ぐえっ」
力が、強い。どうにも出来ぬ私の身体。
私、勉強するために教室残ってたんだよ?寒かったから窓閉めようとしてたんだよ?なのにこんな、こう、破廉恥?な…てか部活どうした。
「アンタって、俺の事どう思ってるの」
「どう思ってるって、どうとは」
「…俺の気持ち、どうでもいいわけ」
声の主は私の後輩。
委員会が同じなだけで、他の接点は何も無い。
彼は部活内でもだいぶ活躍してるから、校内だと知らない人の方が少ないだろうな、ぐらい。
「俺、先輩に結構ダイタンな事してたと思うんだけど?」
「まぁ、確かに言われてみれば…そうかも…?」
他の後輩よりかは距離感は近かったかな…
すると、ぼーっと考えていた私を抱きしめていた腕を解くやいなや、私の身体をくるっと回して今度は向かい合わせに抱きしめてきた。
「…俺こんなこと、先輩にしかしないんで」
そこまで私と身長が変わらない彼が耳元で囁いてくる。パニックになる私は落ち着こうと目を閉じると、胸元に違うタイミングで心臓の鼓動が追っかけてくることに気がついた。
その音が、彼の鼓動であることは深く考えなくとも分かるものだった。
気がついた途端、彼が【後輩】ではなく【一人の男性】であることを実感して顔に熱が集まっているのを感じる。多分、耳まで真っ赤だろう。
再び腕の力が緩められて、やっと解放だ…と思っていたら彼が力強い眼差しをこちらに向けていた。
「覚悟してた方がいいんじゃない?」
じゃあ、と言って教室から彼が出ていくと、その場でへなへなと座り込んでしまった。
というか、なんでこのタイミングで来たんだ。
「…どうしたんだろ」
彼も、私も。こんなの、初めてだ。
先程の出来事を思い返してみると、私の人生で聞いたことの無い、ドキドキなんかで収まらないような心音が身体中で鳴り響いていた。
(委員会終わってから先輩が違う男に笑ってたの見てムカついたとか言えるわけないでしょ…)
20250205 【heart to heart】
年齢設定なし
───
『これ君の好きなのだったと思ったから買ってきたよ』
『俺にもやらせて。俺もできるようになったら二人で一緒にできるし』
『いつもありがとう。大好きだよ』
彼からの愛情は、わたしの心に次々と積もっていく。
それらの【やさしさ】が花のように儚く、美しいことは私が一番よく知っている。
そして、私が死なない限り、その花は枯れないことも知っている。
「私こそいつもありがとう。私も大好きだよ」
そう言って彼を抱きしめる。
あなたがくれた花たちを、花束にして渡させて───
20250204 【永遠の花束】
(加筆修正:2月5日)
人物の年齢設定なし
幼なじみとの話
───
「…俺の事、好きじゃないでしょ」
「…え」
付き合って間も無い私たちに亀裂が入る。
彼に気に食わないことをしてしまったのかと、過去の自分を光速で振り返る。が、思い当たる節がない。
「俺さ、気づいてたんだよ。付き合った時から」
「…何を?」
「俺がどんなに君を求めても、君の視線はいつも違うやつに向かってたってことだよ」
「なにそれ、っ、」
要するに、私は彼に向き合いきれていなかったということだ。そんなの、彼からすれば私が浮気の同じようなことをしていると感じていたと、深く考えなくとも分かる話であった。
完全に私が悪いのに、まるで私が被害者であるかのように涙がぼろぼろと枷を切ってこぼれてくる。
「…このままだとさ、俺たち幸せになれないと思うんだよね」
「、っ、」
「だからさ」
俺たち別れよう。
彼はそういうのに対して、私は何も言い返せない。
これが了承だと考えた彼は、私たちの関係から逃げるように走っていった。
───
「───大丈夫?」
振られた現場から一歩も動けない私を心配するような声が、私の耳にこだまする。
その声に、私はなんだか自然と耳を傾けていた。
顔を上げると、見知った顔が私を見下ろすようにあった。
「…なんで、いるの」
「僕、君のいる場所ってすぐ分かっちゃうんだ」
君がいつも頑張ってるの、僕はずっと見てたよ。
私に優しい眼差しを向ける彼。
さっき振ってきた彼と、優しくしてくれる姿が重なって見えてしまった。
お願いだから、優しくしないで───
彼の優しさにアレルギー反応を示す私の隣に彼はふぅ、と息をついて腰をかけた。
「正直、僕は今嬉しいんだ」
泣き顔を晒す女子の前で最低なことを言う彼。
構図としては最悪だけど、今は理由を聞きたくて仕方なかった。
「──君の傷口に付け入る僕って、最低かな?」
何も言えず、彼の横顔をじっと見つめることしか出来ない。
私の心を全て見透かされているように、彼は私をやさしく扱うような言葉を次々と紡いでいく。
昔から、この横顔が好きだったなぁ、なんてふと考えた時、気づいてしまった。
───私、君のことが好きだよ。
「ふふ、ありがとう」
「え、口出てた?」
「それはもう、完璧に」
私は昔から彼の優しさに絆され続けていたのかもしれない。
私の視線は、気づいた時から君にくぎ付けだった。
20250203 【優しくしないで】
学生
───
部活後、忘れ物を取りに教室に戻ると、私の隣に位置している男子基い私の好きな人の席が目に入った。
隣になれたこと自体奇跡に近いが、それに加えて仲まで(少しであるが)良くなれているというのだから、人生分の運を使い果たしているのではないかと心配になる。
私自身告白する勇気はないが、自分の気持ちは伝えない事はとにかく後悔するような気がした。
だから、ノートの切れ端に私の気持ちを詰め込めた手紙をシャーペンで書いて引き出しの中に突っ込んどいた。
ゴミと思われたら、それまでだ。
次の日、学校に来ると油性ペンで「昼休み屋上来て」と書いてある手紙が引き出しの中に入っていた。
彼の方を見たら、ほんのり赤くなった耳がちらりと見えた。
20250202 【隠された手紙】
学生〜大人
───
「それじゃ、また明日」
「ん、ばいばい」
私たちは学生で、付き合ったばっかりの頃。
さりげなく言っていたこの言葉。
大人になってもこの関係の名前は変わらず、ずっと一緒にいるものだからてっきりこの関係の先に行くものだと思ってた。
でもあなたは、遠いところに行く決意をした。
空港で、こちらを向いたあなたは言った。
「行ってくる」
「…行ってらっしゃい」
私たちの【また】はいつになるのかも告げず。
3年後、私とあなたに銀色のリングが揃って嵌っていることを、私はまだ知らなかった。
20250201 【バイバイ】