人物の年齢設定なし
幼なじみとの話
───
「…俺の事、好きじゃないでしょ」
「…え」
付き合って間も無い私たちに亀裂が入る。
彼に気に食わないことをしてしまったのかと、過去の自分を光速で振り返る。が、思い当たる節がない。
「俺さ、気づいてたんだよ。付き合った時から」
「…何を?」
「俺がどんなに君を求めても、君の視線はいつも違うやつに向かってたってことだよ」
「なにそれ、っ、」
要するに、私は彼に向き合いきれていなかったということだ。そんなの、彼からすれば私が浮気の同じようなことをしていると感じていたと、深く考えなくとも分かる話であった。
完全に私が悪いのに、まるで私が被害者であるかのように涙がぼろぼろと枷を切ってこぼれてくる。
「…このままだとさ、俺たち幸せになれないと思うんだよね」
「、っ、」
「だからさ」
俺たち別れよう。
彼はそういうのに対して、私は何も言い返せない。
これが了承だと考えた彼は、私たちの関係から逃げるように走っていった。
───
「───大丈夫?」
振られた現場から一歩も動けない私を心配するような声が、私の耳にこだまする。
その声に、私はなんだか自然と耳を傾けていた。
顔を上げると、見知った顔が私を見下ろすようにあった。
「…なんで、いるの」
「僕、君のいる場所ってすぐ分かっちゃうんだ」
君がいつも頑張ってるの、僕はずっと見てたよ。
私に優しい眼差しを向ける彼。
さっき振ってきた彼と、優しくしてくれる姿が重なって見えてしまった。
お願いだから、優しくしないで───
彼の優しさにアレルギー反応を示す私の隣に彼はふぅ、と息をついて腰をかけた。
「正直、僕は今嬉しいんだ」
泣き顔を晒す女子の前で最低なことを言う彼。
構図としては最悪だけど、今は理由を聞きたくて仕方なかった。
「──君の傷口に付け入る僕って、最低かな?」
何も言えず、彼の横顔をじっと見つめることしか出来ない。
私の心を全て見透かされているように、彼は私をやさしく扱うような言葉を次々と紡いでいく。
昔から、この横顔が好きだったなぁ、なんてふと考えた時、気づいてしまった。
───私、君のことが好きだよ。
「ふふ、ありがとう」
「え、口出てた?」
「それはもう、完璧に」
私は昔から彼の優しさに絆され続けていたのかもしれない。
私の視線は、気づいた時から君にくぎ付けだった。
20250203 【優しくしないで】
2/3/2025, 10:48:03 AM